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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

繊維系大学連合による次世代繊維・ファイバー工学分野の人材育成(調査報告)

 平成24年12月10日(月)ホテル東京ガーデンパレス (東京都文京区湯島 1-7-5)で標記事業のキックオフ・フォーラムが開催された。
 国内繊維産業が中国等の新興国の攻勢により、川上は海外展開し、川下は転廃業していくなかで、繊維系大学は、「絶滅危惧学科」とも揶揄され、学科名から”繊維"を外す動きまであった。
 このような社会環境の中にあって、この事業が目指すものや国としてどのような戦略に立って優れたものとして採択したのかを調査した。

【文部科学省の考え】
 我が国の高等教育の活性化及び高度な人材育成に資することを目的に、”国公私立の設置形態を超え、地域や分野に応じて大学間が相互に連携し、社会の要請に応える共同の教育・質保証システムの構築を大学長が中心となって行う優れた取組”を支援する「大学間連携共同教育推進事業」を平成24年度から高等教育局大学振興課大学改革推進室が行っている。
 この度、信州大学・福井大学・京都工芸繊維大学による標記人材育成事業は上記の主旨に合致したものとして採択した。(153件の申請があり、49件の取組が採択)

【事業の目論見:繊維・ファイバー工学系人材育成の重要性】
①「繊維・ファイバー工学」分野はグローバルな視点から見れば成長産業である。中国やインドの台頭など、アジアの所得水準は年々高まってきており、消費市場がこれまでの欧米・日本から中国東南アジアとなっている。
②成長市場において、我が国の技術的・知財的な地位確保は経済活動を支える上で不可避の課題である一方で我が国の教育者・研究者は激減している。
③欧州や米国では、成長するアジア市場をにらんで、繊維系大学の連携により、高度な研究活動や教育システムの再構築が行われ、直近でも新設大学が現れている。
④繊維系の高度な研究活動とは、「21世紀を繊維工学の時代」と位置づけ(20世紀を金属の時代と位置づける)、生体工学や環境工学において必要不可欠な素材であるナノファイバー、防災・防犯・戦闘で不可欠となる高温耐熱繊維や次世代アラミド繊維を開発することであり、欧米では専門書の出版も相次ぎ、活発化している。(カーボン繊維の開発を最後に新たな繊維素材開発が少なく、国内ではハンドブックなどの辞書類の出版はあるものの成書の出版が途絶えて久しい)
⑤我が国としては、立ち後れたこの分野においてファーストステップとして、次世代を担う繊維技術士、
繊維製品品質管理士や繊維に関する知識を網羅的に教育できる技術者・研究者を育成する事が急務。

【事業概要】
①信州大学、福井大学、京都工芸繊維大学の各大学院の修士課程に「繊維・ファイバー工学コース」を設置し、平成25年度より各大学5名の学生を受け入れ、連携教育を実施。
②3大学と繊維産業界・関連学協会とが連携して、他大学へのインターンシップ、海外招へい教員による授業の開講、繊維系合同研修、e-ラーニングでの教材の整備を行う。
③各大学の強みを活かし、弱い機能を補完する形で我が国における繊維系大学院連合の構築を目指。
④繊維・ファイバー工学分野の基礎から応用、製品開発までの一貫した知識・技術を修得させ、グローバルな視野を持ち、課題設定力・課題解決力、リーダーシップを兼ね備えた技術者、研究者を育成する。

【調査者雑感】
 繊維系人材が枯渇する中で、”とりあえず”TES(Textiles Evaluation Specialist 繊維製品品質管理士)クラスの人材を育てる仕組みを作ろうということ。繊維の最先端の研究者を育てるという最終目標とは相当な乖離がある。しかし、この状況は欧米の繊維系大学でも同様で、欧米における大学院カリキュラムを見る限りでもTESを超えるものではない。産業の基盤技術人材作り(土台作り)と考えられる。

以下、上記事業の裏付けと考えられる資料を経済産業省ならびに文部科学省の統計他より掲載する。


図1 購買力平価GDP上位50ヶ国の地域別シェアの変化(アジア・オセアニアのみ成長)


図2 1995年シェア順位から2016年シェア順位の変化
   (順位上げトップはベトナム。日本・英国は順位下げ)

 
図2-2-8 企業等の研究者の専門別構成比

※欧州における繊維系研究機関連合について
 欧州繊維系大学連合Association of Universities for Textiles(AUTEX):1994年に設立。加盟大学は23カ国31大学。主な加盟大学は、マンチェスター大学(英国)、アーヘン工科大学(独国)、ドレスデン工科大学(独国)、国立工芸繊維高等学院(仏国、ENSAIT)、ノースカロライナ州立大学(米国)。信州大学繊維学部は東華大学(中国)とともに加盟している。この連合では、繊維教育の標準化と研究の質保証を目標に高いレベルでの教育研究を達成するために連携・協力を進めている。査読付論文を発表できるAUTEX Research Journalを発行している。1998年から繊維及び衣服に関する高レベル修士課程教育が行えるコース(E-Team)を加盟大学共同で設置し(連携大学院)、2年間4学期のそれぞれの学期を別々の大学にて学習できる体制を整えた。
 欧州繊維研究機関ネットワーク(Textile Transfer Network):オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フランス、独、英国、ギリシャ、ハンガリー、リトアニア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スウェーデン、スイス、スペイン、チェニジアの繊維研究機関で構成。①技術的・商業的優位性の獲得、②会員間の情報交換、③国際プロジェクト立ち上げ(EUの競争的資金100億€/年の獲得)などを目的とする。
 上記、2ネットワークはテン・カーテ社会長 ディック・ヘンドリックが率いる欧州繊維産業連盟(EURATEX)が運営する欧州技術プラットフォームに加盟しており、プラットフォーム全体としては、650名超の専門家が参画している。

※欧州における繊維産業の現状について
 ○EU内の年間消費額:4,000億€、EU内化学繊維/テキスタイル/衣料品産業年間売上:1,700億€
 ○EU内の繊維関連企業数と従業者数:15万社、200万人超 テキスタイル輸出世界第2位
 ○衣料品輸出世界第3位

※世界の繊維生産について
 新興国の経済発展に伴う需要拡大によって増加傾向。日本化学繊維協会によると、2011年における世界の主要繊維生産は7671万トン。2002年(5073万トン)に比べ、5割以上増えた。一方、我が国は、衣料については対中国をメインに95.9%の輸入浸透率(繊維全体では77%)となり、世界でも稀な輸入超大国になっており、成長する世界市場から取り残されている。


 連絡先:新潟県工業技術総合研究所 素材応用技術支援センター
     TEL0258-62-0115



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