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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

「繊維産業(見附)に夢を求めて....」



     写真1 Don Quixote & City Hall in La Grand-Place, Brussels

 今年(平成25年6月)、東京・府中市から織物産業に夢の実現を求め見附にある製織企業に飛び込んだ若き女性の熱き思いをご紹介します。

 中国等からの輸入品が97%超となっている衣料分野で、彼女は強き意思をもって国産織物の企画・開発に挑戦を続けておられます。

 TPPの陰に隠れていますが、我が国とEU(欧州連合)との間で自由貿易協定(FTA)締結にむけた交渉が進められています。 協定が発効すると、イタリアやフランス、フィンランドなど世界のファッションをリードする地域から関税フリーで衣料品が輸入されてくることが予想され、今以上に国内繊維産業は苦境に立たされることになります。

 日本において、プレタポルテ(高級既製服)、レディーメード服の時代の扉が開いたのは、1958年のピエール・カルダン来日の頃からといわれ、EU地域に比べ市場の歴史はまだまだ浅く、なんとなくEUからのインポート衣料に引け目を感じています。

 これまでの地場繊維産業のあり方でEU衣料との戦いに勝ち残ることは難しく、新たな価値を創造・創出する取り組みが求められてきます。

 業界各位がこれから模索する新たな価値創造に彼女の思いが参考となるのではないでしょうか。

 以下に彼女の思いを紹介します。


”わたしが繊維業界に就職した理由”


 「まあ!素敵な生地!!何を作ったら良いかしら??」

 これは、私がオーダーデザイナーとして最初に勤めた創業63年のオーダー服会社でお得意様との間によく交わされた言葉でした。

 私の父は理学博士、母は大学の助教授をしており、特別何かを強要されたりすることはありませんでしたが、とにかく様々な場所へ連れて行かれ、帰宅後は行った先から持ち帰った品々(画集や、資料集、又は貝殻、海藻、植物、石などなど)を観ては振り返る作業をさせられていた気がします。

 そういった体験を通してか、私の将来の夢は徐々に固まっていき、形や色を追いかける事が出来る、「美術」に始まり、その後は「デザイン」へ移行し、最終的には「衣食住」の衣の「デザイン職」を志すようになってオーダーデザイナーとしての社会人生活がスタートした訳です。

 既製品が当たり前の時代に生まれた私には、オーダー服会社での経験、すなわち服を身に纏う事に対する情熱がこの世界では非常に高尚なことであること、そしてお客様の喜びであるという事に驚き、強く感銘を受けたものでした。

 オーダー服会社で扱っていた素材は9割がイタリア、イギリス、スイス、オーストリア等EU圏をメインに現地の各アパレルやオートクチュールアトリエなどからのインポートで上代は140cm巾で\1500~\100,000/m以上のものばかり。

  
       写真2 オーダー服会社で出会ったインポート素材たち
    (華やかでキッチュなデザインとシルクウール素材のコラボが魅力)

 私には今まで見た事のないような生地に感動を覚えたものでした。

 それらの生地の多くが、家族経営や歴史のある中小企業で創られたものであったことも驚きで、その驚きから益々作り手であるテキスタイルに対する想いは私の中で大きくなる一方でした。

 こだわりのある良いものを創るには、職人などの「つくる側」と、要望を出す「買う側」がダイレクトにやり取りする、又は距離が近いという事が何よりも大切であり、大きな歯車でマスプロダクトを作り出す方法では「創ること」は到底不可能なこととなります。

 260年続いた江戸時代の町民文化でも、こだわりのある町人などは身の回り品を職人へオーダーしていたと文献にあります。

 こだわりが強くなればなるほど職人の腕は上がり、自ずと競争が成り立つ事で更なる技術向上へ繋がったということだったのでしょう。

 人には様々な生き方があり、その選択ができるのが今の日本の良い所だと思います。
様々な経済の歴史を経て、飽和状態と言われる現代社会、何に価値を置き、自身の満足感を満たしていくのか。

 作る側にある「私」や、こだわりを求められる「お客様」それぞれのの中にある「豊かさ」というものを創造するために生きてゆきたいと思っています。

 努力した分、評価を受け、認められる事によって「精神的な豊かさ」が私にとって金銭に換えることの出来ない収入なのだと思います。

 この収入は、社会と繋がっているという事、自身の存在が社会から認められているということ、つまり「生き甲斐」というところに尽きると思います。

 私はいま、見附市にある織物メーカー((株)匠の夢)に今春よりお世話になっています。

 この会社は、私が求める「こだわり」を実現できる会社と思っています。

    


    写真3 筆者が見附で開発した商品たち

    左上:経糸専用のインクジェットプリンターを活用したほぐし織り
    右下:オリジナルジャガード柄

 私がテキスタイルデザイナーとして学んだ事の1つに、マスに出ている商材が全てではないということがあります。

 かといって工芸品なのかというとそうでもなく、大量生産大量消費の時代が終焉を迎える中で、漠然とではありますが「マスの中の工芸品」がこれからはあっても良いのではないかと思っています。

 これまでの価値観は飽和状態になり、消費者は新たで新鮮な価値観を求めています。

 例えば、一口に「シルク」と言っても、極細の糸からできた柔らかなオーガンジー(最近東北の齋栄織物さんが開発したもの)や、野蚕など本当に沢山の種類があります。

 綿にしても同様で、綿花の状態で茶色や緑色のものや、最高級とされる海島綿に負けない様な風合いや付加価値のあるものが存在するはずであり、ウールにもオーストラリアの一部の牧場で採れる超極細でカシミヤよりも高級なものがあります。

 もちろん、ほとんどの消費者は衣類は生活の一部でしかないと考え、マスプロダクツを求め続けるのは否めません。

 しかし、「ここぞの時」には相応しいものをわざわざ購入したり、様々な思いを持って服を所有する人は少なくないと思います。

 何が良いか分からない現代の情報社会の中で、今もって出来る事は「リアル」だからこそ表現し伝達する事ができる「もの」や「こと」と思っています。

 そこには、説得力のある価値観がなくてはいけませんし、これの実現には、これまで培ってきた技術力がなければなりません。

 私の中の定義として常にあるものは、「モノ」は正直であるということです。

 どんなに饒舌なプレゼンテーションを付加し、莫大なコストを掛けてプロモーションを行なっていても....、

 やはり”最後は「モノ」が物申す”....と思いますし、そうであって欲しいと願っています。

 もっともっとユーザーに寄り添いながら、価値観をこちらから提案していく様な、そのような構造を持ったメーカーが業界内に増えたらと今は思っており、その一人、またはその一助になりたいと、私自身は思っています。

 私は、この様な想いを持って、少しずつ具現化できる場所を探し、ここ新潟県に来ました。

 あくまで、従業員として企業の売り上げを伸ばすことに貢献するのは大前提としながらですが、職人さんを始め様々な方々にお会いし、「ものづくり」における喜びを共有したいと考えています。

 自分がやりたいことと出来ることのギャップの大きさは十分わかっているつもりです。

 私は作り手側(匠たち)の夢の実現に向けて一所懸命に頑張ります。

 当面はニットと織物の営業コラボを考え、新潟県から強く情報の発信したいと思っています。

 「ここぞの時」が今よりももっと増え、日本が心の面でも豊かになり、匠たちが応えていけるようになれることが私の夢です。

 多くの皆様からご助言ご支援をいただき夢が実現するよう祈念し、筆を置きたいと思います。


【後記】
 私が社会に出た頃は、丁度衣料業界に革命を起こした「ユニクロ」が台頭した時で、私自身もH&Mやamerican apparel等で良く出来た値頃なカットソーやワンピース等を購入したりもしますので、マスプロダクツはビジネスとしてはやはり凄いなと思っています。  楠野 充絵
                        



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   TEL 0258-62-0115



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