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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

【機器貸付】濡れやすさと表面張力



写真1 蛇口と水の滴り(※1

 工業製品の開発で素材の濡れ性は、設計上きわめて大きなファクターとなっています。(※2

 素材の濡れ性は、素材表面に滴下した水滴の接触角度(※3)で評価していますが、今回の技術&トピックでは、素材の濡れ性について「表面張力」、「ヤングの式」、「接触角と濡れ性」、「表面張力と自由エネルギー」でわかりやすく解説してみたいと思います。

【表面張力】
 水道の蛇口から水が一滴おちるとき、重力加速度でちょっと変形していますが、ほぼ球状の形となって滴下します。(写真1

 自由に変形できるはずの水が、けっして平べったくなったり、あるいは三角形などいろいろな形になって落下せず、不思議なことに球状になります。

 滴下する水の内部(バルク、同一物質)では、水分子の間に均等な引力(分子間力)が働いて均衡が取れ、一散することなくまとまっていますが、空気など別の物質との境界面(界面)では、異種分子との分子間力がこれに加わります。 滴下する水滴表面では、異種分子である空気(窒素や酸素分子)と水分子との分子間力が働く訳ですが、空気の分子密度が水内部に比べ極めて希薄(約1/6300)なため、水の表面分子を引き寄せる力が弱く、いっぽうで界面の水分子に対する内部の水分子からの引力(分子間力)が圧倒的に大きいため、水滴表面に表面張力が生じ、球状に丸まって表面を最小にしようとしている訳です。

 このように球状となって落下する水ですが、床に着地したとき図1に示す3態の形となります。

 床に濡れ広がろうとする左側と、床との接触面を小さくとろうとする右側、そして中間形です。床の濡れ性は左側ほど高く、右側ほど濡れ性が低い(撥水性が高い状態)となります。


図1 床(固体表面)での水滴の状態

【ヤングの式】
 英国の物理学者Thomas Young,(1773.6.13 - 1829.5.10)は、水滴が床面で形成する図1の形を液相(水)と固相(床)と気相(空気)が接触する点における力のバランスで説明するヤングの式(式1)を1805年頃見いだしました。


図2 固相・液相・気相の接触(ヤングの式)

水が固体に接触している模式図を図2に示しますが、Thomas Youngは

 γs:固相(床)と気相(空気)との界面に働く表面張力
 γw:液相(水)と気相(空気)との界面に働く表面張力
 γws:固相(床)と液相(水)との界面に働く表面張力
 θ:液相(水)と固相(床)との接触角

とし、水と空気との表面張力γwの床面方向の成分[γw・cosθ]と固相(床)と水との界面に働く表面張力[γws]との和が固相(床)と空気との界面に働く表面張力[γs]と釣り合ったとき、水滴は静止状態を保つとして、式1を導き出しました。

 ....式1

【接触角と濡れ性】
 図1に示しました水と床との接触状態(3態)と式1との関係について考えてみます。

濡れ性の高い左側の場合:γwは常に一定なので、γs>>γws、すなわち固相と気相との界面に働く表面張力(γs)が液相と固相との界面に働く表面張力(γws)よりも大きい場合、θは0に近づきγwのγws方向の成分を大きくします。

濡れ性が低い右側のケース: γwは常に一定なので、γs<<γws、すなわち固相と気相との界面に働く表面張力(γs)が液相と固相との界面に働く表面張力(γws)よりも小さい場合、θは90度より大きくなりγwのγs方向の成分を大きくします。

濡れ性が普通の真ん中のケース:γsw、すなわち固相と気相との界面に働く表面張力(γs)が液相と固相との界面に働く表面張力(γws)が等しい場合、θは90度(cosθ=0)となり、γwの寄与はなくなります。

【表面張力と表面自由エネルギー・濡れ性】
 表面張力とは、異なる相の界面に働く単位長さあたりの力でmN/mの単位で一般的に表しますが、熱力学的には、単位面積あたりに存在するGibbsの自由エネルギーG(等温等圧下において取り出し可能な仕事量)「表面自由エネルギー」mJ/m2(∵J=N*m)でもあります。

 表面自由エネルギーの特徴は、熱力学の基本であるエネルギーが小さくなる方向(安定な方向)に移ることで、Gibbsの自由エネルギーの定義式G=H-TSからわかるように、場の乱れの増大(Sの増大)により値が小さくなる方向に移る訳です。
(この場合、乱れとは整然と単独でいた状態から、複雑に結び合うことです。)

 先に出た表面張力の表記をそのまま自由エネルギーと読み替え、水が素材表面に濡れ広がるということをエネルギー変化として見ると

  γs+ γw→γws ....式2

で表現することが出来ます。

 式2を W=γs+ γw - γws ....式3   γs - γws = γw・cosθ より

   W=γw ・(1 + cosθ) ....式4
 
と変形し、Wを「ぬれ仕事」といい、この値が大きいほど濡れやすくなります。

 すなわち、素材、水単体で持つエネルギー(γs、γw)の和よりも濡れた状態のエネルギー(γws)の方が低ければ(γsw - γws > 0)、濡れが広がるということです。


【γwsが小さくなることと濡れやすくすること】
 ガラスとフッ素フィルムの上に水滴を落とすと、ガラス上で水滴は図1の左側の様相を呈し、フッ素フィルム上では図1の右側の様相を呈します。

 ガラスは、二酸化ケイ素(SiO2)がアモルファス構造(非結晶構造)の骨格をとり、骨格の隙間にナトリウムやカルシウムイオンが取り込まれた構造のため、水分子との間で緩やかな水素結合をとってエネルギーを安定化させることが出来ますが、フッ素フィルム(テフロン)は、-[CF2-CF2]- が連続する構造のため、水分子との結合をする場所がなく、エネルギーを安定化することは出来ません。

 この水と素材との結合によるエネルギー安定化の度合いが「濡れやすい表面」や「撥水性の表面」をなしている正体です。

 化学的には、水と素材との結合しやすさを「親水性、Hydrophilicity」と称し、電荷による水素結合で説明されます。

 少々、回りくどくなりましたが、濡れ性や撥水性を理解頂けましたでしょうか......


※1 写真1は著作権フリーサイトhttp://www.photolibrary.jp/img257/198351_2042454.htmlより

※2 自動車のサイドミラーの中にはガラス上で雨が水滴とならず、拡張濡れが起こるような加工がされ、視界が守られています。一方、スマートフォンの画面では、防水性を保つため、撥水加工がされています。

※3 接触角計貸付料金 1350円/hr

素材応用技術支援センター設置の接触角計
・標準液適法
・測定倍率 36倍
・試料寸法 20(W)、50(D)、10(T)


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 新潟県工業技術総合研究所  素材技術支援センター
   TEL 0258-62-0115



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