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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


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センシング技術の農業応用に関する調査研究
事例紹介(その5) 「葉面電位センサ」
 「センシング技術の農業応用に関する調査研究」プロジェクトでは、AI・IoT時代の農業を見据え、最適な方法で農作物の生育情報を取得することにチャレンジしています。 得られた生育情報は養水分管理などの生産工程の自動化に活用でき、次世代の農業に貢献できるものと考え、研究開発に取り組んでいます。

 今回は葉面電位センサについて紹介します。

1.植物の電気的なセンシング
 診察や健康診断の時、心臓の動きを電気信号でとらえる心電図計測で心臓の様子をみていただいたことはありませんか?心臓の他にも脳や筋肉の電気的なセンシングは医療に活用されています。また医療以外にも、脳波計測を応用した居眠り運転の判断装置、筋電図計測を応用したロボットスーツなど、生体の電気信号をセンシングして製品に活用しようという取り組みがみられます。
 植物も生体ですので、環境の変化や生体の変化によって電気的な変化がみられるかもしれません。そこで植物の電気信号をセンシングして植物の状態を観察する研究が様々な研究機関で試みられています。今回、我々はイチゴの葉の表面電位差を計測するための葉面電位計測器を試作し、植物の電気信号のセンシングを試みました。

2.実験装置
 葉面電位計測の実験風景を図1に示します。LED水耕栽培器へイチゴを植え、脳波計測用ペーストを塗った脳波計測用電極を葉の表面へ貼り付けました。 電極と増幅器を接続するケーブルのノイズ対策として、ケーブルにアルミニウム箔を巻き付け、アルミニウム箔の片端を増幅器のアルミ箱へ接続しました。 電気信号は微弱なので、増幅器を用いて表面電位を増幅しました。増幅器の内部を図2に示します。 本実験では植物を含めた電気回路が形成されることから、植物へ人が触れても感電しないように回路を設計しました。 0Vを基準にした両電源(±5V)の計装アンプで99倍に増幅したアナログ電気信号を、1.65Vを基準にした片電源(+3.3V)の16bit AD変換器でデジタル信号に変換しました。 基準は、計装アンプ出力に加算回路で1.65Vを加えて変更しました。AD変換の結果はI2Cケーブルで接続されたコンピュータへ記録しました。サンプリング周波数は1Hzです。

   図1 葉面電位計測の実験風景

      図2 増幅器の内部
 
3.実験
 イチゴの異なる葉面へ電極を取り付けた場合(図3)と、同じ葉面へ電極を取り付けた場合(図4)について、葉面電位差の計測を試みました。 結果を図5に示します。グラフの横軸は日時で、平成29年2月28日午前6時から平成29年3月6日午前6時までの記録です。 縦軸はAD変換器の出力結果(Vadc[mV])です。出力結果を以下の式へ代入すると、葉面電位差(Vin[mV])が求められます。
    電極1: Vin[mV] = 0.0142 × Vadc[mV] + 1.3794
    電極2: Vin[mV] = 0.0139 × Vadc[mV] + 1.2754
 図5で「昼間」と書かれた黄色の時間帯は、日の出から日の入りまでを表しています。また、「消灯」と書かれた灰色の時間帯(午後10時から午前4時まで)は、タイマを使ってLED水耕栽培器のLEDを消灯しました。計測結果をみると、消灯と点灯のタイミングで表面電位差に変化がみられ、計測装置の動作が確認できました。

  図3 電極1(異なる葉へ取り付けた)

  図4 電極2(同じ葉へ取り付けた)

              図5 葉面電位差の計測結果
4.おわりに
 今回は葉面電位センサの試作事例を紹介しました。測定で得られたデータは植物の何らかの生体情報を表している可能性が考えられます。今後は、照度計や温湿度計などのデータを組み合わせながら研究を試み、可能性を探りたいと思います。

 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       企画管理室 主任研究員 木嶋 祐太
       E-mail