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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


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天然ゴム(NR)の熱劣化について

1.はじめに
 最近の支援センターの技術相談として、パッキンなどのゴムに関連したものが見受けられるようになってきています。しかしながら、実際にこれらの使用されているゴム部品を分析すると、熱などによる劣化により新品の製品とは異なる結果が得られることがあります。また、ゴム製品は添加剤が多く含まれているため純粋なゴムとは挙動が異なる場合があります。そこで、ここでは市販品のゴムの熱による劣化を赤外分光分析により解析しました。なお、この実験結果は平成30年度小規模研究の結果からの抜粋になります。

2.実験
【実験方法】
 試験品は市販されている天然ゴム(NR)を用いました。試験品をそれぞれ100, 175, 230, 280, 310, 330℃まで10℃/分で加熱し5分間保持したあと、室温まで戻し赤外分光分析を行いました。使用した分析装置はサーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製フーリエ変換赤外分光分析装置Nicolet iS50で、Geクリスタルを使用した一回反射ATR法で分析を行いました。

【実験結果】
 図1に赤外分光分析の結果を示します。

赤外スペクトル
図1 NRの赤外スペクトル

 NRの特徴的なピークは1449cm-1のCH3変角振動およびCH2対称面内変角振動、1376cm-1のCH3対称変角振動、837cm-1のC=CH-面外変角振動です。一方、1077cm-1のピークは無機充填剤であるシリカ(SiO2)の吸収によるものと推測されます。また、1750~1550cm-1のブロードなピークは天然ゴムに含まれるタンパク質によるものと考えられます。
 加熱による変化をみてみると1750~1550cm-1のブロードなピークの変化が顕著ですが、これは前述のとおりタンパク質のピークであると考えられます。そこで、図2に920~800cm-1を拡大して表示した赤外スペクトルを示しました。

赤外スペクトル(拡大)
図2 NRの赤外スペクトル(920~800cm-1を拡大して表示)

 この図から温度上昇に伴い837cm-1のピークが減少し、 887cm-1のピークが大きくなっていることがわかります。この変化は特に330℃に顕著に現れています。887cm-1のピークは末端オレフィンのCH面外変角振動によるものと考えられます。天然ゴムでは300℃以上に加熱するとイソプレン、テルペン、セキステルペン、ジテルペンなどにランダムに分解することが知られており1)、赤外分光分析での結果も温度が上昇するにつれ天然ゴムの分解が進んでいることを示していると思われます。実際のゴムの変化は175℃まではゴムとしての原形は保っていますが、230℃以上になると粘つく状態になり、それ以上の温度では粘つきが増加するとともに黒い炭の状態になっており、実物の状態とも合致しています。

参考文献
1) 日本ゴム協会誌, 第47巻 第7号(1974) pp.433-445

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        県央技術支援センター   佐藤 亨
        TEL:0256-32-5271   FAX:0256-35-7228