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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

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炭素鋼と焼入れ


中越技術支援センター  
主任研究員 斎藤 雄治

 ここでは、S45C などの機械構造用炭素鋼鋼材とその焼入れについて話をします。この鋼材は、炭素鋼やSC材と呼ばれることもあります。材料記号の頭文字のSはSteel(構造)、2桁の数は炭素含有量(単位:重量%)の100倍、末尾のCはCarbon(炭素)を意味しています。JIS(日本工業規格)では炭素含有量が異なるS10C~S58Cが規定されています。炭素含有量が多いほど焼入れをしたときに硬くなり、炭素含有量が0.3%以上では焼入れによって実用的な硬さが得られます。

 ここで、炭素鋼と関係が深い焼入れについて説明します。金属は結晶からできており、その結晶の集まりを金属組織と呼んでいます。常温において、炭素鋼の金属組織は軟らかいフェライト(ほぼ純鉄)と硬いセメンタイト(鉄と炭素の化合物)からなります。図1にS45Cの焼入前の金属組織を示します。白い部分はフェライトで細かい粒状の部分はセメンタイトと言います。このことは、炭素の分布に偏りがあることを意味しています。この状態から800~900℃に加熱すると、オーステナイトという単独の金属組織になります。オーステナイトでは、炭素の分布が一様になります。この状態からゆっくり冷やせば、図1のような金属組織になり、炭素の分布に偏りができますが、急冷すると炭素が一様のまま、図2に示すマルテンサイトという針状の硬い金属組織に変わります。オーステナイトの状態から急冷してマルテンサイトにする熱処理を焼入れと言います。

 焼入れで得られるマルテンサイトは非常に硬いのですが、同時に脆いため、このままでは機械部品には使えません。このため、焼入後に適当な温度に加熱、保持後、冷却する焼戻しという熱処理を行います。これによりマルテンサイトが分解して、図3に示すような緻密な金属組織が得られます。

 一般的に、焼戻しの温度が高い程、保持時間が長い程、材料は軟らかくなります。焼戻しによって、焼入れ前に比べて硬さは下がりますが、耐衝撃性は高まります。焼入れと焼戻しはセットで行います。なお、機械部品に適するよう、ある程度の硬さと耐衝撃性をもたせる焼入れ焼戻しの熱処理のことを調質と呼んでいます。

 さて、焼入れの際、マルテンサイトが得られる最小の冷却速度を臨界冷却速度といいます。臨界冷却速度は鋼材に含まれる元素の種類や量などによって変わります。炭素鋼の臨界冷却速度は大きいため、早く冷やさないと焼きが入りません。炭素鋼の場合、直径が20mmを超えると水で冷やしても臨界冷却速度に達しなくなり、焼きが入りにくくなります。一方、クロムやマンガンなどの元素を多く添加した鋼材は臨界冷却速度が小さくなるため、大物でも焼入れできます。

   
   図1 S45C焼入前    図2 S45C焼入後(850℃) 図3 S45C焼戻後(600℃)

 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       中越技術支援センター
         TEL 0258-46-3700