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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

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鋳鉄と炭素


 中越技術支援センター 
主任研究員 斎藤 雄治

 鋳鉄は鋳物に適した鉄ですが、一般的な鋼材と何が違っているのでしょうか。最も大きな違いは炭素量です。鉄に含まれる炭素量が多いと、溶ける温度が低くなります。鉄筋などに使われている一般的な鋼材は1500℃以上に加熱しないと溶けませんが、鋳鉄は1200℃程度に加熱すれば溶けはじめます。鋳鉄には3%程度の多くの炭素が含まれています。

 ここで、少し化学の話をします。純粋な物質に別の物質が加わると、液体から固体になる温度が低下する現象(凝固点降下)が起こります。これによって、固体から液体になる温度も低下します。加える物質の種類によって凝固点降下の効果は変わります。炭素は鉄の凝固点を大きく下げる効果があります。炭素量が多い鉄は少ない鉄に比べて、液体から固体、または固体から液体になる温度が低くなるため、鋳鉄は一般的な鋼材に比べて少ないエネルギーで鋳造を行うことができます。鋳鉄には2%程度の多くのケイ素も含まれていますが、ケイ素も鋳鉄を低い温度で溶かすことに貢献しています。

 さて、溶けた鉄には多くの炭素を溶かせますが、固体になると溶けきれない炭素が出てきます(析出と呼びます)。鋳鉄の成分や冷え方によって炭素の析出の仕方が変わります。鋳鉄の断面を鏡面研磨して軽く腐食した後に顕微鏡で観察した金属組織を図1~図3に示します。図1に見られる細長いものと図2に見られる丸いものが炭素(黒鉛)です。図1の鋳鉄をねずみ鋳鉄、図2の鋳鉄を球状黒鉛鋳鉄と呼びます。なお、炭素が黒鉛として析出せず、鉄との化合物(セメンタイトの形)として析出した鋳鉄を白鋳鉄と呼びます。図3は白銑鉄の金属組織です。一般的に、炭素やケイ素が少ない場合や冷却速度が大きい場合、セメンタイトが析出しやすくなります。

 黒鉛があると、冷え固まるまでの材料の収縮が少ない、振動をよく吸収する(特にねずみ鋳鉄)、減りにくい(耐摩耗性に優れる)、圧縮強さが大きい、錆びにくい(耐食性に優れる)といった利点がある一方、強度が低い(ねずみ鋳鉄)、塑性加工性が低い、硬さが低いといった欠点もあります。これらの利点や欠点をよく理解した上で、鋳鉄を利用していくことが大切です。


   
    図1 ねずみ鋳鉄の金属組織       図2 球状黒鉛鋳鉄の金属組織

  
     図3 白鋳鉄の金属組織


 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       中越技術支援センター
         TEL 0258-46-3700