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実験メモ:焼入れ焼戻しを行った鋼の旧オーステナイト結晶粒界の現出


 中越技術支援センター 
主任研究員 斎藤 雄治

 鋼の焼入れについては、刀の焼入れなどでご存知の方も多いと思います。少し専門的になりますが、鋼の焼入れは、材料を高温(780~900℃程度)に加熱してオーステナイトという金属組織にした後、急冷してマルテンサイトという金属組織を得る熱処理のことをいいます。高温に加熱した鋼材のオーステナイト組織を顕微鏡で観察するのは現実的ではありませんが、焼入れ後にマルテンサイトになった後でオーステナイトの結晶粒の境目(粒界)を観察することができます。この結晶の粒界を旧オーステナイト結晶粒界と呼んでいます。旧オーステナイト結晶粒の大きさは、鋼材の強度(特に衝撃値)と密接に関係します。結晶粒が大きければ鋼材の強度は低くなり、小さければ高くなります。このため、高い安全性が要求される機械部品等については、熱処理後の硬さだけでなく旧オーステナイト結晶粒の大きさも図面で指示されることがあります。

 金属組織を観察するには、金属材料を鏡面に研磨した後に腐食液で組織を現出させる必要があります。鋼材の金属組織の現出に用いる腐食液には、ナイタル(配合:硝酸 1~5ml、エチルアルコール 100ml)やピクラル(配合:ピクリン酸 4~5g、エチルアルコール 100ml)がありますが、これらの腐食液で旧オーステナイト結晶粒界を現出することは困難です。旧オーステナイト結晶粒界の現出には専用の腐食液を用います。この資料の最後に掲げた参考文献に10種類以上の腐食液が紹介されていますが、ここでは、その中のNo.7という腐食液(配合:ピクリン酸 4~5g、界面活性剤4~5g、蒸留水 100ml、HCl 1~2滴、40~50℃に加熱して使用)を実際に作成して、旧オーステナイト結晶粒界を現出させる実験を行いましたので、以下で紹介します。

1.実験条件
試 料:直径20mm、長さ20mmの機械構造用炭素鋼S45C
熱処理:焼入れ(850℃に15分間保持後に水冷)
    焼戻し(600℃に1時間保持後に水冷)
腐食液:①硝酸 5ml、エチルアルコール 100ml(通常の金属組織観察用の腐食液)
    ②ピクリン酸 5g、台所用洗剤 5g、蒸留水 100ml、HCl 1滴
     (腐食液No.7、50℃に加熱して使用)

2.実験結果
(1)通常の金属組織観察(腐食液①を使用)

 図1は焼入れ後の金属組織です。ひげ状のマルテンサイトという金属組織が見られます。図2は焼戻し後の金属組織です。調質熱処理で得られる細かいソルバイトという金属組織が見られます。

  
   図1 焼入れ後(マルテンサイト)    図2 焼戻し後(ソルバイト)

(2)旧オーステナイト結晶粒界の観察(腐食液②を使用)
 バフ研磨と腐食を三回繰り返した後の結果を図3と図4に示します。図3の焼入れ後では、旧オーステナイト結晶粒界が黒く見られます。一方、図4の焼戻し後では、旧オーステナイト結晶粒界は図3ほど明瞭ではありませんが、ある程度観察することができます。焼戻しが進むと、旧オーステナイト結晶粒界以外の場所も腐食液に侵されやすくなるため、バフ研磨と腐食をさらに繰り返す必要があると考えます。

  
       図3 焼入れ後             図4 焼戻し後

参考文献
藤木、旧オーステナイト結晶粒界の現出、熱処理25-6(1985年)、338~342


 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       中越技術支援センター
         TEL 0258-46-3700