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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

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ステンレス鋼の腐食について


 中越技術支援センター 
主任研究員 斎藤 雄治

 当センターには、企業から金属製品・部品の破損等のトラブルに関する相談が多く寄せられます。ここでは、その中からステンレス鋼の腐食について解説します。

 ステンレス鋼はクロムを10.5%以上含有させて耐食性を著しく向上させた合金です。耐食性が高い理由は、材料中のクロムが空気中の酸素と結合して表面に数nmのきわめて薄い保護皮膜(不動態皮膜と呼ばれます)ができるためです。ここで、nmはナノメートルと読み、1ナノメートルは1mmの100万分の1です。

 不動態皮膜は強靭でさびの進行を防ぎ、傷が付いて壊れても周囲に酸素があれば瞬間的に再生する優れた膜です。しかし、この不動態皮膜にも弱点があります。それは塩素イオンです。海水などの塩素イオンが濃い環境において、ステンレス鋼の不導体皮膜は壊れやすく、加えて皮膜の再生も阻害されます。いわゆる「鉄」と呼ばれる鋼材では、腐食が表面全体で同じように進行する(全面腐食と呼ばれます)のが普通ですが、ステンレス鋼では不動態皮膜が破壊した箇所で局部的に腐食が進行します。以下に、ステンレス鋼の代表的な腐食の種類を示します。

○孔食:塩素イオンを含む水中において、不動態皮膜が壊れた箇所で局部的に腐食が進行します。塩素イオンは不動態皮膜を破壊する上に皮膜の再生も阻害するため、壊れた皮膜の箇所で腐食が急速に進行します。表面からみると、図1のように虫が食ったような穴ができます。なお、上記の水中というのは、水道水が蒸発して塩素イオンが濃い濃度になっている場合も含みます。

○隙間腐食:塩素イオンを含む水中において、10μm程度のきわめて小さな隙間で腐食が進行します。隙間の中では不動態皮膜を再生するための酸素が不足するため、腐食がより進行しやすくなります。隙間の例としては、部品同士を固定したときにできるわずかな隙間や、表面に付着した異物とのわずかな隙間が挙げられます。

○粒界腐食:金属組織の結晶粒界が優先的に侵される腐食で、成長すると割れに至ります。オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)を特定温度(600~800℃)に長時間(数分~数百時間。炭素含有量による)加熱すると、材料中のクロムが炭素と化合物を作り結晶粒界に出てきます(析出と呼ばれます)。すると、周囲のクロム濃度が不足して耐食性が維持できない状態(鋭敏化といいます)になり、結晶粒界で腐食が進みやすくなります。炭素含有量が多い材料ほどクロムと化合物を作りやすいため、鋭敏化しやすくなります。図2は粒界酸化によって破断したSUS304製の金具の金属組織です。結晶粒界がよく見えており、鋭敏化していることがわかります。


  
 図1 SUS304表面にできた孔食   図2 鋭敏化したSUS304の金属組織


 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       中越技術支援センター
         TEL 0258-46-3700