中越技術支援センター
主任研究員 斎藤 雄治
球状黒鉛鋳鉄(FCD)は第二次世界大戦後に開発された比較的新しい材料です。黒鉛の形が球状になっているため、片状黒鉛鋳鉄(FC)に比べて引張強さや衝撃値(靱性)が大きく、機械部品などに広く使われています。ここでは、FCDの強度と金属組織の関係について解説します。
【FCDの強度と金属組織】
FCDは日本工業規格(JIS)のG5502において、機械的性質が異なるFCD350~800が規定されています。ここで、FCDの後に続く三桁の数字は引張強さです。この引張強さを決めているのは、黒鉛の部分を除いた生地と呼ばれる部分の金属組織です。引張強さは、生地の金属組織が全てフェライトと呼ばれる軟らかい組織であるときに小さく、パーライトと呼ばれる硬い組織が増えるにしたがって大きくなります。一方、靭性は、パーライトが増えていくにしたがって小さくなります。なお、FCD800のように大きい引張強さが必要な場合は、焼入れ焼戻しの熱処理を行い、焼戻しマルテンサイトという金属組織にすることもあります。
【FCDの金属組織を変えるには】
FCDの生地の金属組織は冷却速度、黒鉛組織の状態、化学成分によって変わりますが、組織のコントロールは主にCE値(炭素とけい素の量)と接種によって行われています。しかし、それでも引張強さが不足する場合には、パーライトを作りやすい元素(銅、すず、マンガン、クロムなど)が適量添加されます。一方、靭性を高める等のためにフェライトを増やす場合には、パーライトを作りやすい上記の元素を少なくしつつ、黒鉛を作りやすいケイ素などを多めに添加します。
ここで、生地の金属組織がすべてフェライトになるFCDについて見てみます。この場合、フェライトの結晶粒が小さい方が引張強さは大きくなります(Hall-Petchの関係というものに従います)。また、フェライトの結晶粒の大きさは黒鉛の大きさと相関があり、黒鉛が大きいとフェライトも大きくなります。つまり、黒鉛が大きいと引張強さが小さくなる傾向があります。さらに、黒鉛の大きさは、単位面積当たりの黒鉛の数とも相関があり、黒鉛が大きいと黒鉛の数が少なくなります。つまり、黒鉛の数が少ないと黒鉛が大きくなり、フェライトも大きくなって、引張強さが小さくなる傾向があります。ただし、元々軟らかいフェライトですから、フェライトの結晶粒の大きさが多少変わったとしても、引張強さがそう大きく変わるものではありません。強度を高めるには生地に占めるパーライトの割合を増やしていくのがより効果的です。
【参考文献】
・新版鋳鉄の生産技術教本編集委員会編、新版鋳鉄の生産技術、2012年、
素形材センター、pp.302-306
・中江秀雄監修、新版 鋳鉄の材質、2012年、日本鋳造工学会、pp.38-45
・長船、田中、フェライト球状黒鉛鋳鉄の結晶粒微細化と引張特性、
鋳造工学69-4(1997年)、pp.309-315
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