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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

Topページ > 機械・金属関係 技術トピックス > 【県央技術トピックス】SUS420J2の硬さと金属組織

技術トピックス

 
県央技術支援センター 主任研究員 斎藤 雄治

 マルテンサイト系ステンレス鋼のSUS420J2は、焼入れ焼戻しによって高強度、高硬度にすることができます。このため、耐食性に加えて強度や硬さを要する機械部品や刃物などに多く使用されています。この材料で作られた刃物の金属組織を観察することがありますが、文献や資料に参考となる金属組織写真がほとんど載っていないため、組織の良否の判断が難しい場合があります。このため、SUS420J2を種々の温度で焼入れ後に低温焼戻しを行ったものについて、硬さと金属組織を調べてみました。なお、この試験は平成26年7月に実施したものです。

1.実験条件

供試材:φ19×L20mmのSUS420J2
実験装置:(株)東洋製作所製 電気マッフル炉 KM-420
      (株)ミツトヨ製 ロックウェル硬度計 HR-521
      (株)ニコンインステック製 倒立型金属顕微鏡 TME3000U-NR型
熱処理: 焼入れ…900~1150℃の各温度に25分保持後、空冷
      焼戻し…180℃に2時間保持後、空冷(低温焼戻し)
硬さ試験:試験片端面をサンドペーパーで研磨後にロックウェルCスケールで試験
金属組織:試験片端面を鏡面研磨してから塩酸-ピクリン酸―アルコール溶液(配合:HCl10ml、ピクリン酸1g、エチルアルコール80ml)で腐食して金属顕微鏡で観察


実験結果

(1)供試材の金属組織

 金属組織の観察結果を図1に示します。球状炭化物が一様に分布した状態になっています。基地組織はフェライトです。

(2)熱処理後の金属組織と硬さ

 供試材を種々の焼入れ温度で焼入れおよび焼入焼戻ししたロックウェル硬さの試験結果を図2に示します。焼入後と焼入焼戻後のいずれについても、焼入温度1050℃のときに最高硬さになっていることがわかります。

 次に、供試材を種々の焼入れ温度で焼入れ後焼戻しした金属組織の観察結果を図3~図8に示します。まず、焼入温度が900~1050℃の金属組織(図3~図6)について説明します。組織は焼戻しマルテンサイトと細かい球状炭化物になっています。この球状炭化物は図1で見られたものと同じものです。焼入温度が高くなるほど、球状炭化物の量が少なくなっていますが、その分、マルテンサイト中の炭素量が増えるため、焼入れ硬さが高くなります。

 次に、焼入温度が1100~1150℃の金属組織(図7、図8)について説明します。粗い焼戻しマルテンサイトが見られます。焼入温度が高いため球状炭化物は見られません。ここで、図2に示したように、焼入温度が1050℃を超えると硬さが低下していきますが、これは、焼入れ温度が高くなると、全てがマルテンサイト組織とはならず、一部が残留オーステナイトという組織になるためと考えられます。


図1
供試材(フェライトと球状炭化物)

図2
種々の焼入温度に対する硬さ

図3
焼入れ:900℃に25分保持後、空冷
焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷

図4
焼入れ:950℃に25分保持後、空冷
焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷

図5
焼入れ:1000℃に25分保持後、空冷
焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷


図6
焼入れ:1050℃に25分保持後、空冷
焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷

図7
焼入れ:1100℃に25分保持後、空冷
焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷


図8
焼入れ:1150℃に25分保持後、空冷
焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷



 お問い合わせ
  新潟県工業技術総合研究所 県央技術支援センター
   TEL 0256-32-5271