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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

Topページ > 機械・金属関係 技術トピックス  > 【県央技術トピック】工具鋼(YCS3)の硬さと金属組織

【県央技術トピックス】 


 県央技術支援センター 
専門研究員 斎藤 雄治

 日立金属(株)のYCS3はJISのSKS93相当材で、SK3にクロムやマンガンを添加して焼入性を向上させた鋼材です。ここでは、種々の温度で焼入れしたYCS3の試験片について、硬さと金属組織を調べた結果を紹介します。なお、この試験は平成27年3月に実施したものです。

1.実験条件

・試験片 :YCS3(直径19mm、厚さ20mm)
・実験装置:ヤマト科学(株)製 電気マッフル炉 F0410
(株)アカシ製 ロックウェル硬度計 ATK-F3000
(株)ニコンインステック製 倒立型金属顕微鏡 TME3000U-NR型
・熱処理 :焼入れ…760~910℃の各温度に20分保持後に油冷
      焼戻し…180℃に1時間保持後、空冷(低温焼戻し)
・硬さ試験:試験片表面のスケールを落とした後、ロックウェル硬度計で試験(HRC)
・金属組織:試験片断面を鏡面研磨後、硝酸-アルコール溶液(HNO3 3ml、エチルアルコール97ml)で腐食後、金属顕微鏡で試験片中央部の金属組織を観察

実験結果

2.1 熱処理前の試験片の金属組織

 金属組織の観察結果を図1に示します。球状の炭化物が無数にみられます。基地組織はフェライトです。

2.2 熱処理後の試験片の硬さと金属組織

 図2に、種々の温度で焼入れおよび焼入焼戻した試験片のロックウェル硬さの試験結果を示します。焼入温度が790℃以上において、焼入焼戻後の硬さがHRC60以上となりました。また、焼入温度が820℃と850℃において、焼入焼戻後の硬さが最も高くなりました。

 次に、種々の温度で焼入後に180℃で焼戻した試験片の金属組織の観察結果を図3図8に示します。

 図3は、温度760℃で焼入後に焼戻した試験片の金属組織です。図3には焼戻マルテンサイト(灰色の部分)と炭化物の他に不完全焼入組織(黒色の部分)がみられます。この材料は合金元素の量がさほど多くないため、試験片の直径が大きいと不完全焼入組織が出やすいと考えられます。この不完全焼入組織は微細パーライトまたはベイナイトと考えられます。

 図4図5は、焼入温度790℃と820℃の各温度で焼入後に焼戻した試験片の金属組織です。図3と同様に焼戻マルテンサイト、不完全焼入組織および炭化物がみられますが、図3に比べて焼入温度が高いため、焼戻マルテンサイトがやや粗くなっていることがわかります。

 図6図8は、焼入温度850℃~910℃の各温度で焼入後に焼戻した試験片の金属組織です。焼入温度が高くなるに従って、焼戻マルテンサイトが粗くなるとともに、白色の組織が多くみられることが図6図8より分かります。白色の組織は残留オーステナイトだと考えられます。また、焼戻マルテンサイトが粗くなると耐衝撃性が低下するので注意が必要です。図2において、焼入温度が880℃と910℃で硬さがやや低下していますが、これは軟らかい残留オーステナイトが増えたためと考えられます。




 図1 熱処理前の試験片
(フェライト、炭化物)

図2 熱処理後の試験片の硬さ(焼戻し:180℃に1時間保持後、空冷)
 
図3 焼入れ:760℃に20分保持後、油冷
  焼戻し:180℃に1時間保持後、空冷

図4 焼入れ:790℃に20分保持後、油冷
  焼戻し:180℃に1時間保持後、空冷

図5 焼入れ:820℃に20分保持後、油冷
  焼戻し:180℃に1時間保持後、空冷
 
図6 焼入れ:850℃に20分保持後、油冷
  焼戻し:180℃に1時間保持後、空冷
 
図7 焼入れ:880℃に20分保持後、油冷
  焼戻し:180℃に1時間保持後、空冷
 
図8 焼入れ:910℃に20分保持後、油冷
  焼戻し:180℃に1時間保持後、空冷




 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター
         TEL 0256-32-5271