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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。

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旧オーステナイト結晶粒界の現出について

1.はじめに
 鋼の焼入れは、材料を高温(780~1100℃程度:材質等によって変える)に加熱してオーステナイトという金属組織にした後、急冷してマルテンサイトという金属組織を得る熱処理をいいます。高温に加熱した鋼材のオーステナイト組織を顕微鏡で観察するのは現実的ではありませんが、焼入れ後にオーステナイトの結晶粒の境目(粒界)を観察することはできます。ここで、この結晶粒の粒界を旧オーステナイト結晶粒界と呼んでいます。
 ここで、旧オーステナイト結晶粒の大きさは、鋼材の耐衝撃性(靭性)と関係があります。一般的に、結晶粒が大きいと衝撃に弱く(靭性が小さく)、結晶粒が小さいと衝撃に強く(靭性が大きい)なることが知られています。このため、焼入れ焼戻しを行った鋼の製品・部品が破損した場合等で旧オーステナイト結晶粒を観察するを行うことがあります。
 旧オーステナイト結晶粒界の観察を行うには、試料を鏡面研磨した後に専用の腐食液に浸漬させる必要があります。ここでは、鉄鋼材料の一般的な腐食液(硝酸アルコール溶液)と、旧オーステナイト結晶粒界を観察する専用の腐食液(市販のAGSエッチャント、ピクリン酸の飽和水溶液ベースの腐食液)で金属組織を観察した結果を紹介します。

2.実験
・供試材 :S45C(φ20×20mm)、カッコ内は試料の大きさ
・実験装置:(株)東洋製作所 電気マッフル炉 KM-420
      (株)ニコンインステック 倒立型金属顕微鏡 TME3000U-NR型
・熱処理 :焼入れ 850℃
      焼戻し なし、300℃で1時間、600℃で1時間
・金属組織:試験片断面を鏡面研磨および腐食後、金属顕微鏡で金属組織を観察した。
・腐食液 :①硝酸アルコール溶液
        HNO33ml、エチルアルコール 97ml
      ②市販のAGSエッチャント
        (株)山本科学工具研究社製 AGSエッチャント
      ③ピクリン酸の飽和水溶液ベースの腐食液
        ピクリン酸 2g、界面活性剤(台所用洗剤) 5g、
        塩化ナトリウム 0.15g、硫酸 0.07g、蒸留水 100ml
      ※②と③は50℃に加熱して10分浸漬
       その後、水酸化ナトリウム水溶液で中和して水洗

3.実験結果
 図1に腐食液①~③で腐食した結果を示します。
 腐食液①で腐食すると、焼入れした時はマルテンサイト組織が見られ、焼入れ後に焼戻しを行った時は焼戻しマルテンサイトが見られます。ここで、300℃焼戻しより600℃焼戻しの方がマルテンサイトの分解が進んで金属組織が細かくなっていることが分かります。
 一方、腐食液②や③で腐食すると、焼入れした時と、焼入れ後に300℃で焼戻しを行った時は旧結晶粒界がくっきりとみられます。ここで、腐食液②の方が結晶粒界をより選択的に腐食していることが分かります。また、焼入れ後に600℃で焼戻しを行った時は基地の腐食が進行して結晶粒界が見えにくくなることが分かります。焼戻し温度が高い場合に旧オーステナイト結晶粒界を明瞭に観察するには、腐食後にわずかなバフ研磨を行う等の工夫が必要と考えられます。

旧オーステナイト結晶粒界の観察結果
図1 熱処理した炭素鋼S45Cの各種腐食液による金属組織


 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0256-32-5271  FAX:0256-35-7228