本文へスキップ

新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。



X線応力測定における応力定数の測定

Topページ > 機械・金属関係 技術トピックス  > X線応力測定における応力定数の測定

1.X線応力測定とは
 機械加工や熱処理等で生じる残留応力は、材料の強度や変形に大きく影響します。多結晶材料の残留応力を測定する方法として、X線の回折現象を利用したX線応力測定法があります。この測定法でよく用いられているものとして、sin2ψ法があります。いま、図1のように試料面の法線方向から応力測定方向に向かってψ角を取って応力を測定する場合を考えると、平面応力状態の弾性等方性の多結晶材料に対しては、縦軸に回折線の位置を表す回折線ピーク位置、横軸にsin2ψを取ったsin2ψ線図は図2に示すように直線となります。このとき、応力値はsin2ψ線図の直線の勾配に応力定数Kという値を掛けることによって求まります。応力定数Kは、材料の弾性定数E、νや無ひずみ状態の回折角θ0を使って求めることができますが、これらの定数が不明の材料については、試験片に応力を負荷しながらX線で測定することにより、応力定数Kを実験的に求める場合もあります。ここでは、ステンレス鋼や耐熱合金等の応力定数を実験的に求めました。

応力測定方向と照射および回折X線の方向の関係
図1 応力測定方向と入射および回折X線の方向の関係

sin2ψ線図の一例
図2 sin2ψ線図の一例


2.実験
 応力定数を測定した材料は、機械構造用炭素鋼 S50C、析出硬化系ステンレス鋼 SUS630および15-5PH鋼、ニッケル基合金 IN718およびチタン合金 Ti-6Al-4Vです。これらの材料から、幅15mm、長さ80mm、厚さ5mmの試験片を切り出しました。
 これらの試験片に四点曲げ負荷装置(支点間距離:内側30mm、外側60m)で長手方向に単軸応力σを加えながら、応力測定方向を長手方向にとって、試験片の中央部の回折線ピーク位置をX線で測定しました。負荷応力σは負荷装置に取り付けたロードセルの試験力から計算した梁の曲げ応力から求めました。測定の様子を図3に示しました。 各負荷応力に対して、回折線ピーク位置を6点測定してsin2ψ線図にプロットし、これらの点に最小二乗法を用いて当てはめた直線の勾配Mを求めました。回折線ピーク位置は、(株)リガク製 X線応力測定装置 PSPC-MSF-3Mを用いて、並傾法のψ一定法によって表1の条件で測定しました。回折線強度はバックグラウンドとLPA因子によって補正しました。回折線ピーク位置は、補正した回折線強度の70%以上(Ti-6Al-4V)または80%以上(Ti-6Al-4V以外)のデータを用いて、ガウス曲線法1)により決定しました。また、X線計数値固有の統計変動によって生じる測定値のばらつきの大きさを表す95%信頼区間2)を求めました。

測定の様子
図3 測定の様子


表1 X線による応力測定条件
    S50CSUS63015-5PHIN718Ti-6Al-4V
特性X線CrKα線VKα線CuKα線
回折面(211)(220)(213)
フィルタV箔Ti箔Ni箔
管電圧, kV30
管電流, mA10
コリメータ, mm2×2
ステップ角, deg0.150.2
プリセットタイム, s3050600
揺動角, deg0±20


3.実験結果
 図4に、負荷前のψ=0degに対する各試験片の回折線プロファイルとそれを近似したガウス曲線を示しました。図4から、回折線の最大強度の70%以上(Ti-6Al-4V)または80%以上(Ti-6Al-4V以外)の点がガウス曲線でよく近似されていることが分かります。

回折線
図4 回折線プロファイルのガウス曲線近似

 図5は、各試験片に四点曲げ負荷装置で種々の負荷応力σを加えたときのsin2ψ線図です。これらの図には、各負荷応力に対して6点の回折線ピーク位置に最小二乗法を用いて当てはめた直線を示しました。負荷応力σによって回折線ピーク位置やsin2ψ線図の直線が変化していることが分かります。また、sin2ψ線図上の回折線ピーク位置が直線に乗るものと乗らないものがありますが、この要因としては材料の塑性ひずみや弾性異方性によるもの等が考えられます。

sin2ψ線図
図5 種々の負荷応力に対するsin2ψ線図

 図6は、図5のsin2ψ線図の直線の勾配Mを負荷応力σに対してプロットしたものです。sin2ψ線図上の回折線ピーク位置が直線の乗る乗らないに関わらず、sin2ψ線図の勾配Mは負荷応力σに対して比例して変化することが分かります。ここでは、この直線の勾配の逆数を応力定数Kとして求めました。

σ-勾配
図6 種々の負荷応力に対するsin2ψ線図の勾配M

 表2には、図6の直線の勾配から求めた応力定数の実測値を示しました。材料の応力定数については結晶粒の大きさや配向性によって変わることが知られています。このため、より正確に残留応力を評価したい場合は、ここで紹介したような応力定数の実測も有効と考えます。


表2 応力定数Kの95%信頼限界(MPa/deg)
試験片  実測値
S50C-337±19
SUS630-359±22
15-5PH-361±18
IN718-370±42
Ti-6Al-4V-295±16


文献
1)栗田政則, ガウス曲線法によるX線応力測定の基礎理論, 非破壊検査, 39-5(1990), pp.243-249.
2)栗田政則, 定時計数法によるX線応力測定における応力定数および弾性定数の統計学的解析, 機論(A編), 55-511(1989), pp.590-597.

 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0256-32-5271  FAX:0256-35-7228