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各種腐食液によるステンレス鋼の金属組織観察

1.はじめに
 ステンレス鋼の金属組織を観察する際、ステンレス鋼の種類(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系等)に応じて腐食液を使い分ける必要があります。例えば、オーステナイト系のSUS304の組織観察にはしゅう酸水溶液がよく使われます。この腐食液を使えばSUS304のオーステナイトの金属組織を明瞭に観察できますが、電界腐食を行うため、直流電源や電極が必要となります。このため、腐食液に浸漬するだけで済む塩化第二鉄の塩酸溶液などを使ってSUS304の金属組織を観察したい場合もあると考えられます。
 ここでは、各種の腐食液を使ってステンレス鋼を腐食したときに金属組織がどのように見えるかについて実験を行ったので結果を紹介します。なお、この実験は平成29年4月に実施したものです。

2.実験
・試験片
  オーステナイト系 SUS304(板厚1mm)
  マルテンサイト系 SUS420J2(φ19×L20mm)
  フェライト系 SUS430(板厚0.8mm)
  ※カッコ内は試験片の大きさを表す
  ※SUS420J2は熱処理(焼入れ1050℃15分空冷、焼戻し180℃1時間空冷)したもの
・実験装置
  (株)東洋製作所 電気マッフル炉 KM-420
  PRESI社 試料研磨装置 メカテック334/ディストリテック5
  (株)ニコンインステック 倒立型金属顕微鏡 TME3000U-NR型
・金属組織
  試験片の断面(SUS420J2)または表面(SUS304、SUS430)を鏡面研磨および
  腐食後に観察
・腐食液
  ①しゅう酸水溶液(しゅう酸10g、蒸留水100ml)
  ②カリングⅠ液(蒸留水33ml、エチルアルコール33ml、塩酸33ml、塩化銅Ⅱ1.5g)
  ③塩酸-ピクリン酸-アルコール溶液(塩酸10ml、ピクリン酸1g、
   エチルアルコール80ml)
  ④塩化第二鉄の塩酸溶液(塩化第二鉄10g、塩酸30ml、蒸留水120ml)
  ※①は電界腐食

3.実験結果
 図1に、①~④の各種腐食液で腐食した試験片の金属組織の観察結果を示します。左の列がSUS304の結果、真ん中の列がSUS420J2の結果、右の列がSUS430の結果です。
 SUS304については、①しゅう酸水溶液と④塩化第二鉄の塩酸溶液でオーステナイトの結晶粒が観察できることが分かります。ただし、④塩化第二鉄の塩酸溶液では研磨傷が強調される傾向が見られました。
 SUS420J2については、②カリングⅠ液、③塩酸-ピクリン酸-アルコール溶液および④塩化第二鉄の塩酸溶液で基地組織のマルテンサイトが観察できることが分かります。しかし、④塩化第二鉄の塩酸溶液では介在物等の脱落とみられる黒い斑点が多く見られました。
 SUS430は、②カリングⅠ液、③塩酸-ピクリン酸-アルコール溶液および④塩化第二鉄の塩酸溶液で基地組織のフェライトを観察できることが分かります。このうち、③塩酸-ピクリン酸-アルコール溶液と④塩化第二鉄の塩酸溶液については、フェライトの結晶粒を明瞭に観察できることが分かります。また、②カリングⅠ液については、個々の結晶粒を容易に識別することができました。
 SUS304は①しゅう酸水溶液、SUS420J2とSUS430は塩酸-ピクリン酸-アルコール溶液がよく使われますが、それ以外の腐食液を使っても金属組織を観察することが可能です。ただし、本トピックで紹介したように、腐食液が変わると金属組織の見え方が変わってくることに注意してください。

  結果
図1 ①~④の各種腐食液で腐食した試験片の金属組織

 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0256-32-5271  FAX:0256-35-7228