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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。



工具鋼 KA70の硬さと金属組織

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1.はじめに
 鋼の焼入れ硬さは、焼入前の金属組織に関係することが知られています1)。ここでは、作業工具や刃物等に使われている(株)神戸製鋼所製の工具鋼KA-70について、焼入前に球状化焼鈍しをすると、焼入れ焼戻したときの硬さや金属組織がどれくらい変わるかを調べたので紹介します。なお、この試験は平成29年12月に実施したものです。

2.実験
・供試材 :(株)神戸製鋼所製 KA-70(φ13×L200mm)
・実験装置:(株)東洋製作所 電気マッフル炉 KM-420
      (株)ニコンインステック 倒立型金属顕微鏡 TME3000U-NR型
      (株)明石製作所製 マイクロビッカース硬度計 MVK-G1
・試験片 :供試材から次のA、B二種類を作製
      A:供試材を長さ19mmに切断したもの
      B:供試材を球状化焼鈍し後に長さ19mmに切断したもの
・球状化焼鈍し:(700℃から760℃まで1hで昇温、760℃で15m保持、760℃から700℃まで1hで徐冷、700℃で30m保持)を3回繰返し、常温まで炉冷2)
・熱処理 :試験片A、Bについて次の熱処理を行った。
      焼入れ…750~900℃の各温度に10分保持後に油冷
      焼戻し…180℃に1時間保持後空冷
・硬さ試験:試験片の端面を鏡面研磨後、マイクロビッカース硬度計で試験した(HV0.5)
・金属組織:試験片の端面を鏡面研磨および腐食後、金属顕微鏡で観察
・腐食液 :硝酸-アルコール溶液(HNO3 3ml、エチルアルコール 100ml)

3.実験結果
 試験片A、Bの金属組織を図1と図2に示します。ここで、試験片Aの組織写真は前回と同じものです。試験片Aは一部にフェライト組織が見られるほかはパーライト組織で、炭化物は層状になっていることが分かります。それに対して、試験片Bは球状化焼鈍しを行っているため炭化物が球状になっていることが分かります。
 図3に、試験品A、Bを種々の温度で焼入後に180℃で焼戻したときの硬さを示します。試験片Aでは実験した全ての焼入温度においてHV700を超える高い値を示しました。一方、試験片Bでは焼入温度750℃では硬さが低く、焼入温度750℃以上でHV700以上の硬さになっていることが分かります。また、全ての焼入温度において、試験片Aの方が高硬度になっていることが分かります。
 図4以降は、試験片A、Bを種々の温度で焼入後に180℃で焼戻したときの金属組織を示します。
 図4と図5は、焼入温度が750℃のときの試験片AとBの金属組織です。KA-70は炭素工具鋼SK70と化学成分が似ているため、標準的な焼入温度は800℃前後と考えられます。このため、焼入温度750℃は低めの温度となりますが、試験片Aは焼戻しマルテンサイトになっていることから焼きが入っていることが分かります。一方、試験片Bは一部に焼戻しマルテンサイト(灰色で見える組織)が見られますが、大部分はフェライトと炭化物になっており、焼きが入っていないことが分かります。この組織の違いが、図3の焼入温度750℃における硬さの違いの理由と考えられます。
 図6~図11は、焼入温度が775~825℃のときの試験片AとBの金属組織です。この温度域はKA-70の標準的な焼入温度と考えられます。試験片Bについては細かい焼戻しマルテンサイトとなっていることが分かります。一方、試験片Aについては、試験片Bに比べると粗い焼戻しマルテンサイトになっていることが分かります。このことから、焼入前の金属組織がパーライトになっていると、標準的な焼入温度で焼入れしても組織が粗くなることが分かります。
 図12~図17は、焼入温度が850~900℃のときの試験片AとBの金属組織です。標準的な焼入温度より高いため、試験片A、Bとも焼入温度が高くなるとともに金属組織が粗くなることが分かります。ただし、同じ焼入温度で比較すると、試験片AはBに比べて組織が粗いことが分かります。
 この実験結果が示すように、焼入前の金属組織が異なると同じ鋼材でも焼きの入り方が異なることが分かります。いつもと同じ品物を同じ条件で焼入しているのに焼きの入り方が異なる場合、焼入前の金属組織が異なっている可能性があります。


試験片Aの金属組織
図1 試験片Aの金属組織(硬さは310HV0.5程度)


試験片Bの金属組織
図2 試験片Bの金属組織(硬さは165HV0.5程度)


試験片を種々の温度で焼入後に180℃で焼戻したときの硬さ
図3 試験片を種々の温度で焼入後に180℃で焼戻したときの硬さ


試験片A 焼入れ750℃、焼戻し 180℃
図4 試験片A 焼入れ:750℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片B 焼入れ750℃、焼戻し 180℃
図5 試験片B 焼入れ:750℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片A 焼入れ775℃、焼戻し 180℃
図6 試験片A 焼入れ:775℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片B 焼入れ775℃、焼戻し 180℃
図7 試験片B 焼入れ:775℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片A 焼入れ800℃、焼戻し 180℃
図8 試験片A 焼入れ:800℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片B 焼入れ800℃、焼戻し 180℃
図9 試験片B 焼入れ:800℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片A 焼入れ825℃、焼戻し 180℃
図10 試験片A 焼入れ:825℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片B 焼入れ825℃、焼戻し 180℃
図11 試験片B 焼入れ:825℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片A 焼入れ850℃、焼戻し 180℃
図12 試験片A 焼入れ:850℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片B 焼入れ850℃、焼戻し 180℃
図13 試験片B 焼入れ:850℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片A 焼入れ875℃、焼戻し 180℃
図14 試験片A 焼入れ:875℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片B 焼入れ875℃、焼戻し 180℃
図15 試験片B 焼入れ:875℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片A 焼入れ900℃、焼戻し 180℃
図16 試験片A 焼入れ:900℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


試験片B 焼入れ900℃、焼戻し 180℃
図17 試験片B 焼入れ:900℃に10分保持後に油冷、焼戻し:180℃に1時間保持後空冷


文献
1) 日本鉄鋼協会編, 改訂5版 鋼の熱処理, p.27-28, (1989), 丸善(株).
2) 文献1)の44ページ.

 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0256-32-5271  FAX:0256-35-7228

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