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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


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ステンレス鋼SUS304とSUS430の異常組織

1.はじめに
 ステンレス鋼は錆びにくい特性をもつことから、特に耐食性を必要とする製品に多用されています。しかし、ステンレス鋼を数100℃以上の高温にさらすと金属組織が変化して耐食性や強度が低下することがあります。ここでは、ステンレス鋼によく用いられるSUS304とSUS430について、高温に加熱した後の金属組織の変化を調べ、耐食性や強度の低下について解説しました。なお、この試験は平成29年11月に実施したものです。

2.実験
・供試材 :ステンレス鋼板 SUS304(板厚1.0mm)、SUS430(板厚0.8mm)
・実験装置:(株)東洋製作所 電気マッフル炉 KM-420
      (株)ニコンインステック 倒立型金属顕微鏡 TME3000U-NR型
・熱処理 :SUS304
      ・鋭敏化処理(700℃に2時間保持後空冷)
      ・鋭敏化処理(700℃に2時間保持後空冷)+固溶化処理(1050℃に10分保持後水冷)
      SUS430
      ・固溶化処理(1050℃に10分保持後水冷)
・金属組織:熱処理後の試験片の表面を鏡面研磨および腐食後、金属顕微鏡で観察
・腐食液 :SUS304・・・しゅう酸水溶液*(しゅう酸10g、蒸留水100ml)
      SUS430・・・塩化第二鉄による塩酸溶液(塩化第二鉄10g、塩酸30ml、蒸留水120ml)
      *電解腐食

3.実験結果
 供試材の金属組織を図1と図2に示します。図1はSUS304の供試材でオーステナイト組織になっていることが分かります。一方、図2はSUS430の供試材でフェライト組織になっていることが分かります。SUS304はオーステナイト系、SUS430はフェライト系と呼ばれることもありますが、それは金属組織がオーステナイトとフェライトになっているからです。
 SUS304の供試材に鋭敏化処理を行った後の金属組織を図3に示します。ここで鋭敏化とは、材料中に固溶している(溶け込んでいる)クロム炭化物が結晶粒界に析出した状態をいいます。このときの金属組織は図3のように結晶粒界が濃く見えるのが特徴です。鋭敏化した状態では結晶粒界の耐食性が低下するため、粒界に沿って腐食が進みやすくなります。SUS304については、600~800℃の温度で10分~1時間程度さらされると鋭敏化することが知られているので、例えば溶接のように材料を高温に加熱する場合には鋭敏化に注意が必要です。
 さて、一度鋭敏化してしまったSUS304の金属組織については、固溶化処理を行うことによって元の金属組織に戻すことができます。固溶化処理は鋼の焼入れのような熱処理で、1000℃以上に加熱して急冷します。これにより、結晶粒界に析出したクロム炭化物はオーステナイト中に再び固溶します。図3の鋭敏化処理を行った試料について固溶化処理を行った後の金属組織を図4に示します。図1に示した供試材に比べてオーステナイトの結晶粒は大きくなっていますが、図3で見られたクロム炭化物は無くなっていることが分かります。オーステナイトの結晶粒の大きさは加熱温度を低くしたり保持時間を短くすることによって小さくできると考えられます。
 最後に、SUS430に故意に固溶化処理を行ったときの金属組織を調べてみました。図5にSUS430の供試材に固溶化処理を行った後の金属組織を示します。図5において、左下のスケールの大きさが図1~4とは異なっていることに注意して下さい。図2に示した供試材に比べて図5の結晶粒はかなり粗大化していることが分かります。結晶粒の粗大化は材料強度を著しく低下させます。SUS430の結晶粒の粗大化は溶接部でよく見られますが、一度粗大化した結晶粒を熱処理で小さくすることは極めて困難であるため注意が必要です。


SUS304供試材の金属組織<
図1 SUS304供試材の金属組織


SUS430供試材の金属組織<
図2 SUS430供試材の金属組織


SUS304供試材を鋭敏化処理後の金属組織<
図3 SUS304供試材を鋭敏化処理後の金属組織


SUS304供試材を鋭敏化処理後に固溶化処理した金属組織<
図4 SUS304供試材を鋭敏化処理後に固溶化処理した金属組織


SUS430供試材を固溶化処理した金属組織<
図5 SUS430供試材を固溶化処理した金属組織


 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0256-32-5271  FAX:0256-35-7228