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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


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レーザー顕微鏡による金属組織観察

1.はじめに
 炭素量が多い鋼材の焼入れにおいて焼入れ温度が適正温度より高くなると、マルテンサイト組織に加えて残留オーステナイトという組織が見られるようになります。炭素工具鋼などでマルテンサイト組織と残留オーステナイト組織が混在する場合、金属顕微鏡やマイクロスコープを使って金属組織を観察すると残留オーステナイト組織は白く見えます。ここで、残留オーステナイト組織が白く見えるのは、腐食液に浸したさいにマルテンサイト組織は深く腐食され残留オーステナイト組織は浅く腐食されるからです。このことを金属顕微鏡やマイクロスコープで確認しようとしても、これらの顕微鏡では凹凸の観察は難しいため、ここではレーザー顕微鏡を使って観察しました。なお、この試験は平成30年2月に実施したものです。

2.実験
・試験片 :炭素工具鋼 SK85(寸法:20×20×3mm)
・実験装置:ヤマト科学(株) 電気マッフル炉 F0410
      オリンパス(株) 3D測定レーザー顕微鏡 OLS4100-SAT
・熱処理 :焼入れ…800℃, 900℃の各温度に10分保持後に油冷
      焼戻し…180℃に1時間保持後に空冷
・金属組織:試験片断面を鏡面研磨および腐食後に金属顕微鏡で観察
・腐食液 :硝酸アルコール溶液(配合:HNO33ml、エチルアルコール 97ml)

3.実験結果
 図1~図4に結果を示します。図1は、SK85を800℃で焼入れ後に180℃で焼戻したときの金属組織です。基地組織は焼戻しマルテンサイトで、大きさ1~2μm程度の炭化物も見られます。図2は図1と同じ位置の高さ情報の画像です。図2を図1と比較すると、図1において炭化物が見られる位置は図2で緑色になっていることが分かります。このことから、炭化物は焼戻しマルテンサイトより盛り上がっていることが分かります。
 図3は、SK85を900℃で焼入れ後に180℃で焼戻したときの金属組織です。基地組織は焼戻しマルテンサイトですが、図1と比べてかなり粗いことが分かります。また、白く見える組織がありますが、これは残留オーステナイトと考えられます。図4は図3と同じ位置の高さ情報の画像です。図4を図3と比較すると、図3において画像の中央部に大きめの残留オーステナイトが見られますが、その位置は図4で緑色になっていることが分かります。このことから、残留オーステナイトは焼戻しマルテンサイトより盛り上がっていることが分かります。
 以上のことから、使用した腐食液では、炭化物や残留オーステナイトは基地組織より盛り上がった状態であるため、焼戻しマルテンサイトに比べて腐食されにくいことが分かります。



焼入れ800℃、焼戻し180℃
図1 焼入れ800℃、焼戻し180℃したSK85の金属組織
   (レーザー顕微鏡による通常の観察画像)

焼入れ800℃、焼戻し180℃
図2 図1と同じ位置の高さ情報

焼入れ900℃、焼戻し180℃
図3 焼入れ900℃、焼戻し180℃したSK85の金属組織
   (レーザー顕微鏡による通常の観察画像)

焼入れ900℃、焼戻し180℃
図4 図3と同じ位置の高さ情報



 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0256-32-5271  FAX:0256-35-7228