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合金工具鋼 SKD11の硬さと金属組織
1.はじめに
SKD11は高炭素、高クロム系の鋼材で、焼入れ性がきわめて高く、かなり大きいサイズまで空冷で焼入れ硬化することができます。高い硬さが得られるため、プレスの金型等に用いられています。ここでは、種々の温度で焼入れしたSKD11の試験片について、硬さと金属組織を調べた結果を紹介します。トラブル調査や品質管理に役立てていただければと思います。なお、この試験は平成29年5月に実施したものです。
2.実験
・試験片 :SKD11(直径32mm、厚さ10mm)
・実験装置:(株)東洋製作所製 電気マッフル炉 KM-420
PRESI社 試料研磨装置 メカテック334/ディストリテック5
(株)明石製作所製 マイクロビッカース硬度計 MVK-G1
(株)ニコンインステック 倒立型金属顕微鏡 TME3000U-NR型
・熱処理 :焼入れ…900~1100℃の各温度に20分保持後に空冷
焼戻し…180℃に2時間保持後、空冷
・硬さ試験:試験片断面を鏡面研磨後、マイクロビッカース硬度計で試験した(HV0.5)
・金属組織:試験片断面を鏡面研磨および腐食後、金属顕微鏡で金属組織を観察した
・腐食液 :塩化第二鉄の塩酸溶液(塩化第二鉄10g、塩酸30ml、蒸留水120ml)
3.実験結果
(1)熱処理前の試験片の硬さと金属組織
金属組織の観察結果を図1に示します。基地組織はフェライトで、細かい球状炭化物と塊状の炭化物が見られます。硬さは約230HVです。
図1 熱処理前の試験片の金属組織
(2)種々の焼入温度に対する硬さ
900~1100℃の種々の温度で焼入後に180℃で焼戻した試験片のビッカース硬さの試験結果を図2に示します。焼入温度が1000℃と1050℃で740~750HVの最高硬さが得られました。また、焼入温度が1100℃では硬さの低下がみられました。
図2 熱処理後の試験片のビッカース硬さ
(3)種々の焼入温度に対する金属組織
900~1100℃の種々の温度で焼入後に180℃で焼戻した試験片の金属組織の観察結果を図3~図6に示します。
図3と図4は、図2で最高硬さが得られた温度より低い温度に対する金属組織です。基地組織は焼戻しマルテンサイトで、細かい炭化物と塊状の炭化物が見られます。炭化物は焼入温度が低いほど多く見られるものです。
図5と図6は、図2で最高硬さが得られた温度に対する金属組織です。いずれも焼戻しマルテンサイトと大小の炭化物が見られます。
図7は、図2で最高硬さが得られた温度より高い温度に対する金属組織です。基地組織は図3~図6とは異なっていることが分かります。この温度では硬さが低下していることから、基地組織には相当量の残留オーステナイトが含まれていると推測されます。残留オーステナイトについては硬さや寸法等に影響を及ぼすため、注意が必要です。
図3 焼入れ:900℃に20分保持後、空冷 焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷
図4 焼入れ:950℃に20分保持後、空冷 焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷
図5 焼入れ:1000℃に20分保持後、空冷 焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷
図6 焼入れ:1050℃に20分保持後、空冷 焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷
図7 焼入れ:1100℃に20分保持後、空冷 焼戻し:180℃に2時間保持後、空冷
問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
県央技術支援センター 斎藤 雄治
TEL:0256-32-5271 FAX:0256-35-7228
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