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マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2の旧オーステナイト結晶粒界への炭化物の析出について

1.はじめに
 焼入れしたSUS420J2などのマルテンサイト系ステンレス鋼の金属組織を観察すると、旧オーステナイト結晶粒界が観察されることがあります。焼入れ時の冷却速度が小さいと、旧オーステナイト結晶粒界に炭化物が析出して1)その部位の耐食性が低下することが結晶粒界が見られる理由といわれています。
 ここでは、空冷および油冷で焼入れしたSUS420J2の金属組織の観察と、空冷で焼入れしたときに見られた旧オーステナイト結晶粒界付近の相分析を行いました。なお、この試験は平成30年12月に実施したものです。

2.実験
・試験片 :SUS420J2(φ20×L20mm)
・試験装置:ヤマト科学(株)製 電気マッフル炉 F0410
      オリンパス光学工業(株)製 金属顕微鏡 BX-60M-53MB型
      (株)日本電子製 ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡 JSM-7800F Prime
      (株)オックスフォード・インストゥルメンツ製 DS/EBSD Astec Energy/ HKL
・熱処理 :焼入れ…1050℃に25分保持後に油冷または空冷
      焼戻し…180℃に1時間保持後に空冷
・金属組織観察の前処理:断面を鏡面研磨(仕上げ:ダイヤモンド砥粒)および腐食
・相分析の前処理:断面を鏡面研磨(仕上げ:コロイダルシリカ)および軽く腐食
・腐食液 :塩酸-ピクリン酸-アルコール溶液(塩酸10ml、ピクリン酸1g、エチルアルコール80ml)

3.実験結果
(1)熱処理後の試験片の金属組織
 金属組織の観察結果を図1と図2に示します。図1は油冷、図2は空冷です。図1と図2より、基地組織は焼戻しマルテンサイトで同じですが、空冷では油冷には見られない旧オーステナイト結晶粒界が見られることが分かります。

焼入れ1050℃油冷、焼戻し180℃空冷の金属組織
図1 焼入れ:1050℃に25分保持後に油冷 焼戻し:180℃に1時間保持後に空冷

焼入れ1050℃空冷、焼戻し180℃空冷の金属組織
図2 焼入れ:1050℃に25分保持後に空冷 焼戻し:180℃に1時間保持後に空冷

(2)空冷の試験片の旧オーステナイト結晶粒界付近の相分析
 図2の空冷の試験片に見られた旧オーステナイト結晶粒の粒界付近について、マルテンサイト、残留オーステナイト、セメンタイトFe3C、クロム炭化物Cr23C6の相分析を行いました。その結果を図3に示します。図3左は粒界付近の電子顕微鏡像、図3右は図3左の領域の相分析の結果です。図3左において、中央部に見られる3方向に分岐する線が旧オーステナイト結晶粒界です。また、図3右において、Feはマルテンサイト、Fe3CはセメンタイトFe3C、Fe-FCCは残留オーステナイト、Cr23C6はクロム炭化物Cr23C6を表します。図3より、旧オーステナイト結晶粒界には緑色で表されるセメンタイトFe3Cや黄色で表されるクロム炭化物Cr23C6が存在することが分かります。このことから、本試験片について旧オーステナイト結晶粒界に炭化物が析出していることが確認できました。

焼入れ1050℃空冷、焼戻し180℃空冷の相分析
図3 空冷の試験片の旧オーステナイト結晶粒界付近の相分析の結果

文献
1)板倉ほか, マルテンサイト系ステンレス鋼における焼入れ途中での炭化物析出, 熱処理,35-1, (1995), pp.36-41.

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       中越技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0258-46-3700  FAX:0258-46-6900