ロックウェル硬さ試験の試料について
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ロックウェル硬さ試験の試料について

1.はじめに
  硬さ試験は材料の強さを簡易に評価するもので、金属材料用の硬さ試験方法としてはブリネル、ロックウェル、ビッカース、ショアが日本産業規格(JIS)で規定されています。今回はこの中のロックウェル硬さ試験について話をします。ロックウェル硬さ試験は測定時間が短く試験機の操作も簡単であることから、熱処理現場等での硬さ試験によく用いられています。
 ロックウェル硬さ試験では、圧子を試料に押し込んだときにできる永久くぼみの深さから硬さ値を求めます。しかし、実際には永久くぼみの深さを直接測っているのではなく、くぼみ付けに要した圧子の移動量を測っています。このため、永久くぼみの深さと圧子の移動量が一致しない場合、正確な硬さ値は求まりません。このことは、ロックウェル硬さ試験においてぜひ知っておいて欲しいため、留意すべきことについて解説します。

2.ロックウェル硬さ試験について
 ロックウェルの硬さ試験方法はJIS Z 2245 ロックウェル硬さ試験-試験方法1)で規定されています。ロックウェル硬さ試験では、まず、試料の表面に初試験力で圧子を押し込んだときの押し込み深さを0とし、次いで、全試験力を負荷し、再び初試験力に戻したときの圧子の押し込み深さ$h$(単位mm)を計測します。得られた$h$を使って、ロックウェル硬さ値${\rm HR}$は次式で定義されます。
\[ {\rm HR}=N-\frac{h}{S} \tag{1} \] ここに、$N$と$S$は圧子の種類や試験力(初試験力および全試験力)の組み合わせによって決まる定数です。
 ここで、圧子や試験力の組み合わせをスケールと呼んでいます。JISでは、全試験力は1471、980.7、588.4、441.3、294.4および147.1N、圧子は円すい型ダイヤモンドと球(直径1.5875、3.175、6.35および12.7mm)が規定されています。全試験力を147.1、294.2、441.3Nとしたときのロックウェル硬さをロックウェルスーパーフィシャル硬さと呼んでいます。ロックウェルスーパーフィシャル硬さは試験力が小さいため、表面硬化材や薄板などの試験に向いています。球圧子については、現行のJISでは超硬合金球および鋼球と規定していますが、次回のJIS更新時には超硬合金球が標準の球圧子になる予定となっています。
 表1および2に、金属材料に対するロックウェルおよびロックウェルスーパーフィシャル硬さのスケール、試験力$F$、定数$N$および$S$の関係を示します。硬さ値は${\rm HR}$にスケールを付けて表記します。例えば、Cスケールで値が60であった場合は60HRCと表記します。

表1 金属材料に対するロックウェル硬さのスケール、試験力$F$、定数$N$および$S$の関係
スケール全試験力(N)圧子$N$$S$
A588.4ダイヤモンド1000.002
D980.7
C1471
F588.4
直径1.5874mm
130
B980.7
G1471
H588.4
直径3.175mm
E980.7
K1471

表2 金属材料に対するロックウェルスーパーフィシャル硬さのスケール、試験力$F$、定数$N$および$S$の関係
スケール全試験力(N)圧子$N$$S$
15N147.1ダイヤモンド1000.001
30N294.2
45N441.3
15T147.1
直径1.5874mm
30T294.2
45T441.3


3.ロックウェル硬さ試験の試料について
 ロックウェルの硬さ試験において、硬さ値が1変わるための変位量は、式(1)、表1および表2より、ロックウェル硬さでは0.002mm(2μm)ロックウェルスーパーフィシャル硬さでは0.001mm(1μm)であることが分かります。試料や試験機の試料台に油が付着していたり、試料の裏面が平坦でない場合、μmオーダー以上の変位が余計に測定され、硬さ値が低く測定されることが想像できます。試料の裏面が試料台と面当たりしていなかったために、まったく想定外の低い硬さ値が表示されることも過去に経験したことがあります。このような場合、試料の裏面を平坦に加工したり、受け面が小さい試料台を用いるなどの対応が必要です。

参考文献
1) JIS Z 2245(2018) ロックウェル硬さ試験-試験方法.

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900