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画像処理による鋼の結晶粒度の測定について

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1.はじめに
 鋼の結晶粒の大きさ(結晶粒度)は強度と密接な関係があります。鋼の結晶粒度を評価するための顕微鏡試験として、JIS G0551(2020) 鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法(1)(以下では単にJISと呼びます)があります。この規格では、結晶粒を現出するための方法や結晶粒度の求め方などが規定されています。
 JISの結晶粒度の顕微鏡試験では、結晶粒の境目(粒界)が明瞭に見えるように調整(熱処理、研磨、腐食)した試料の断面に対して、顕微鏡で結晶粒を観察します。ここで、結晶粒の形状は立体であるため、観察される結晶粒は端部から最大径の部分まで様々あります。このため、仮に全ての結晶粒が同じ大きさであっても、観察される結晶粒の大きさにはばらつきがあります。撮影された画像(組織画像)から結晶粒度を求める方法として、次のa)、b)が規定されています。

a)粒度番号を求める方法
 1)結晶粒度標準図との比較
 2)単位面積当たりの結晶粒の平均数
b)結晶粒内を横切る試験線の1結晶当たりの平均線分長(切断法による評価)を求める方法

 ここで、現場においては上記a)1)の結晶粒度標準図との比較が多く用いられています。この方法は組織画像と標準図を見比べて結晶粒度を評価するもので、短時間で結果が得られますが、作業者により結果が異なる場合があります。一方、上記a)2)とb)は結晶粒の数を計測する方法で、作業者による結果のばらつきが小さいと考えられますが、手間がかかります。このため、コンピュータによる計測の自動化が望ましいと言えます。
 今回は、コンピュータによる画像処理を使って、上記b)の方法で結晶粒度を求める方法について説明します。この実験は令和2年8月に行ったものです。

2.切断法による粒度番号の評価方法
 上記b)の方法は切断法とも呼ばれています。切断法は、既知の長さをもつ試験線によって捕捉された結晶粒の数または結晶粒界との交点の数を組織画像上で計測するものです。試験線には直線や円を用います。以下では、試験線に円を用いる方法について説明します。
 まず、図1のように倍率が分かっている組織画像を用意します。この画像は幅を142mmとしたときに倍率500倍になります。このような画像に、図2のように三つの同心円(直径:79.58mm、53.05mmおよび26.53mm)を重ねます。これら三つの円が試験線です。試験線の長さの合計は500mmです。ここで、組織画像の撮影倍率は試験線が捕捉する結晶粒の数が50個以上(交点の数が50個以上)となるように決めます。
 次に、試験線上に存在する結晶粒の数または結晶粒界との交点の数を計測します。JISでは、結晶粒の数を「捕捉結晶粒数」N、結晶粒界との交点の数を「交点の数」Pと呼んでいます。ここで、NPの計測にあたっては、試験線と結晶粒との交差の形態によって取り決めがあります。詳しくはJISを参照してください。
 NまたはPの計測は5視野以上について行い、PまたはNの平均値を求めます。PまたはNの平均値を組織画像上の試験線の長さL(=500mm÷倍率)で割ることにより、「測定線上の1mm当たりの平均捕捉結晶粒数」を得ます。この逆数が「試験線の1結晶当たりの平均線分長」です。これらの値をJIS G0551(2020)の表A.1と比較することにより、粒度番号が求まります。
 ここで、図2の画像について結晶粒度を求めてみます。図2の試験線と結晶粒との交点は筆者が数えた結果、72となりました。実際は5視野以上についてこのような交点を求める必要がありますが、仮にこの視野だけから粒度番号を求めてみます。試験線の実際の長さは1mm(=500mm÷500倍)となります。このため、測定線上の1mm当たりの捕捉結晶粒数は72となり、JISの表A.1より粒度番号は9と求まります。

結晶粒界を現出させた組織画像
図1 結晶粒界を現出させた組織画像(SCM435、焼入れ850℃、腐食液AGS)

図1に三つの同心円を重ねた状態
図2 図1に三つの同心円を重ねた様子

3.画像処理を使った切断法による粒度番号の評価方法
 ここでは、図1の組織画像から画像処理を使って粒度番号を求めます。
 図1は、焼入れした機械構造用合金鋼SCM435の旧オーステナイト結晶粒界を専用の腐食液((株)山本科学工具研究社製 AGS)で現出したものです。図において、結晶粒界の欠損や腐食ピットが認められます。これらは旧オーステナイト結晶粒界を撮影した組織画像によく見られるもので、完全に無くすことは困難です。このため、画像処理を使って結晶粒度を評価するには、これらに対して何らかの対策が必要と考えられます。
 さて、実際に画像処理を使って粒度番号を求めてみます。ここで、画像処理のプログラムはPython(バージョン3.7.4)で作成し、画像処理にはOpenCV(バージョン4.1.2)を用いています。
 まず、画像ファイルをグレースケールで読み込みます。読み込んだ画像は図1のとおりです。
 画像処理を容易にするため、読み込んだ画像について白黒反転した二値化処理をします。ここでは、白黒の閾(しきい)値を自動で決定する大津の二値化を用いました。処理後の二値化画像を図3に示します。
 次いで、図3の二値化画像の白色の部位を輪郭として検出します。検出された輪郭のうち、あらかじめ決めておいた大きさ以下の輪郭を選別します。選別された輪郭を図1の組織画像に色付け表示した結果を図4に示します。図4から、結晶粒内の腐食ピットが選別されていることが分かります。図4で色付けした領域を図3の二値化像から削除した結果を図5に示します。図5より、結晶粒界以外の部分がほぼ削除されていることが分かります。

反転二値化(大津の二値化)
図3 図1を反転二値化(大津の二値化)

小さい輪郭を選別
図4 図3から検出された輪郭のうち、小さい輪郭を色付けしたもの

小さい輪郭を黒色で塗りつぶし
図5 図4の色付けした領域を図3から削除したもの

 図5の画像について、結晶の粒界数の計測を行います。画像中に三つの同心円(直径79.58mm、53.05mmおよび26.53mm同心円)があると仮定したとき、それらの円周上に相当する位置の画素値を調べます。具体的には、円周上に沿って各座標値の画素値を調べ、画素値が255のときに交点の数として数えます。ただし、結晶粒界には幅があるため、画素数が255で続くときは交点の数を加えないこととします。なお、JISでは試験線が三重点に交わる場合1.5と数えると規定していますが、今回の方法では三重点は検出できません。
 結晶粒界の計測結果を図6に示します。この図には、組織画像に三つの同心円を重ね書きし、それらの円弧上で計測された粒界を丸印で示しています。図より、結晶粒界を概ね検出できていることが分かります。

結晶粒界の計測結果
図6 結晶粒界の計測結果

 この方法によって、同じ試料の5視野の粒界数を計測した結果、73、84、84、72、66となり、これらの平均値は76.2となりました。ここで、試験線の実際の長さは1mmであるため、測定線上の1mm当たりの平均捕捉結晶粒数は76.2となり、JISの表A.1より粒度番号は9となります。
 今回は画像処理を使った結晶粒度の測定について紹介しました。この測定では、画像処理しやすい画像(結晶粒界が明瞭で、かつ、粒内の腐食ピット等が軽微な組織画像)を用意することがたいへん重要です。このような画像を得るコツとしては、エッチングとわずかな琢磨を繰り返し行うことです。これにより、結晶粒界を残したまま結晶粒内が綺麗な組織を得やすくなります。

文献
(1) 日本規格協会, JIS G0551(2020) 鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法.

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900

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