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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


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ディープラーニングによる金属組織の画像認識

1.はじめに
 現在、人工知能(AI:Artificial Intelligence)は、将棋やチェス、自動車の自動運転、癒しロボット、インターネットの検索エンジン、ネット広告をはじめ、広く使われています。製造現場においても、不良品の判別、工程の最適化、危険や故障の予知等に使われています。
 このようなAIに大きく貢献しているものがディープラーニング(Deep Learning)です。ディープラーニングは、人間が行っている作業をコンピュータに学習させる、いわゆる機械学習の手法の一つで、大量のデータの中に存在するパターン、ルール、特徴量等を機械が自動的に見つけて学習していきます。そうして得られた結果を使って新たなデータに対する正解を予測します。
 ディープラーニングで比較的多く行われているものとして、画像認識があります。画像認識は画像の中に何が写っているかをコンピューター等が識別する技術で、例としては車の自動運転、生産現場での不良品の自動検知、スマートフォンの顔認証等があります。
 今回は、ディープラーニングによる簡単な画像認識の一例として、鉄鋼材料の5種類の金属組織(フェライトやマルテンサイトなど)について行いました。なお、この実験は令和2年4月に行ったものです。

2.実験
 表1に、ディープラーニングに用いた金属組織の種類を示します。表には各金属組織に対する試料、熱処理、金属組織を現出するためのエッチング液も併せて示しました。熱処理にはヤマト科学(株)製 F0410を用いて、金属組織の観察にはオリンパス光学工業(株)製のBX-60M-53MBに付属するデジタルカメラを用いました。

表1 ディープラーニングに用いた金属組織の種類
金属組織の種類 試料 熱処理等 組織観察に用いた
エッチング液
鋼種 大きさ
(mm)
パーライト SK85 角20×厚さ3 900℃×10分空冷 5%硝酸アルコール
マルテンサイト S50C 角20×長さ20 850℃×10分水冷 5%硝酸アルコール
オーステナイト SUS304 直径20×長さ20 1100℃×10分水冷 10%シュウ酸水溶液(電解にて)
フェライト 純鉄 15×20×厚さ5 950℃×1時間空冷 5%硝酸アルコール
球状セメンタイト SUS420J2 直径20×長さ20 納入状態 塩酸10ml-ピクリン酸1g-アルコール80ml

 観察した金属組織を図1~5に示します。実際に学習と認識の精度検証した金属組織も図1~図5と同じ倍率で観察しました。図のような金属組織画像を各組織につき100枚撮影しました。

パーライト組織
図1 パーライト組織

マルテンサイト組織
図2 マルテンサイト組織

オーステナイト組織
図3 オーステナイト組織

フェライト組織
図4 フェライト組織

球状セメンタイト組織
図5 球状セメンタイト組織

 撮影した組織画像について、200×200ピクセルにリサイズおよびトリミング後、組織の種類ごとに学習用(train)に80個、検証用(validate)に20個に分けてGoogleDriveに格納しました。ディープラーニングのプログラムはPythonで作成し、Google Colaboratory上で仮想GPUを用いて実行しました。今回は、VGG16という学習済みのディープラーニング用モデルを使用して、学習および認証を行いました。なお、学習用画像は表2の条件で水増しを行いました。

表2 画像の水増しの設定
設定項目 設定内容
画像の回転 0~40deg
画像のシフト 0~20%
せん断変換 0~0.2rad
ズーム 0~20%
水平方向反転 あり

3.実験結果
 学習用・検証用それぞれのデータを使って5種類の金属組織を認識させたときの正解率を図6に示します。図の横軸は学習回数です。学習回数が増えるにつれ正解率が増していることが分かります。実験で観察した金属組織については比較的少ない学習回数で正しく認識できました。この理由としては、使用したモデルが特徴を見つけやすい画像であったことが挙げられます。

画像認識の正解率
図6 画像認識の正解率

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900