硬さ試験は材料の強さを簡易に評価するもので、金属材料用の硬さ試験方法としてはブリネル、ロックウェル、ビッカース、ショアが日本産業規格(JIS)で規定されています。今回はこの中のブリネル硬さ試験について話をします。ブリネル硬さ試験は硬さ試験の中でも試験力が大きいため、ビッカース硬さ試験のような局所的な硬さではなく、局所的な硬さを平均化した硬さが得られます。この点を活かして、鋳造品、鍛造品、熱処理品(焼入れ焼戻し、焼鈍し、焼ならし)、固溶化処理品などの硬さ試験に用いられています。
ブリネル硬さ試験では、種々の試験力や圧子の直径を使います。今回は、これらの組み合わせによって硬さ値が異なることと、ある条件下においては同じ硬さ値として扱えることについて解説します。
ブリネル硬さ試験はJIS Z 2243-1 ブリネル硬さ試験-第1部:試験方法1)で規定されています。ブリネル硬さ試験は、超硬合金球の圧子を試験力$F$で試料の表面に押し込み、それによってできたくぼみの大きさから硬さ値を求めます。
ブリネル硬さ値HBWは試験力$F$(単位N)とくぼみの表面積$S$(単位mm2)を用いて次式で定義されます。
\[
HBW=\frac{0.102 F}{S} \tag{1}
\]
ここで、くぼみの表面積$S$を直接測定することは難しいため、くぼみの形状が球であると仮定して$S$をくぼみの直径$d$(単位mm)で表すと、式(1)は
\[
HBW=0.102 × \frac{2F}{\pi D\bigl[D-\sqrt{D^2-d^2}\bigl]} \tag{2}
\]
と表せます。ここに、$D$は圧子の直径(単位mm)を表します。JISでは、$D$は1、2.5、5および10mm、$F$は9.807N~29420Nと規定されています。
硬さ値は、くぼみの直径$d$、試験力$F$、圧子の直径$D$を用いて、式(2)またはJIS Z 2243-2 ブリネル硬さ試験-第2部:硬さ値表のブリネル硬さ算出表2)から求めます。ここで、JIS Z 2243-2の算出表を見ると硬さ値の上限が653となっていますが、このように硬さ値に上限が設けられている理由は圧子の変形や破損を防ぐためです3)。
ブリネル硬さ値は、HBWに試験力(単位kgf)と圧子の直径(単位mm)を付けて表記します。例えば、圧子の直径10mm、試験力29400N(3000kgf)における硬さ値が300であった場合、300HBW10/3000と表記します。試験力は、くぼみの直径が0.24D~0.6Dの範囲とするのが望ましいとされています。
試料の材質および硬さに応じて、用いることが望ましい試験力と圧子の直径がJISで規定されています。表1に、各種の材質および硬さの範囲に対する試験力と圧子の直径の組み合わせで求まる係数(試験力-直径係数と呼びます)$0.102F/D^2$を示します。また、試験力と圧子の直径から求めた試験力-直径係数$0.102F/D^2$の例を表2に示します。
表1 材質および硬さに対する試験力-直径係数$0.102F/D^2$
材質 | ブリネル硬さの範囲 | 試験力-直径係数 $0.102F/D^2$ |
鋼、ニッケル合金 チタン合金 | | 30 |
鋳鉄 (圧子直径:2.5, 5および10mm) | <140 ≧140 | 10 30 |
銅および銅合金 | <35 35~200 >200 | 5 10 30 |
軽金属およびその合金 | <35 35~80 >80 | 2.5 5, 10, 15 10, 15 |
鉛、すず | | 1 |
焼結金属 | ISO 4498による |
表2 試験力と圧子の直径の組み合わせから求めた試験力-直径係数$0.102F/D^2$の例
試験力(kN) | 圧子の直径(mm) | 硬さ記号 | 試験力-直径係数 $0.102F/D^2$ |
29.42 | 10 | HBW10/3000 | 30 |
14.71 | 10 | HBW10/1500 | 15 |
9.807 | 10 | HBW10/1000 | 10 |
4.903 | 10 | HBW10/500 | 5 |
7.355 | 5 | HBW5/750 | 30 |
ブリネル硬さ試験では、試験力や圧子の直径により、同じ試料でも硬さ値が変わります。その例として、表3にブリネル硬さ基準片202HBW10/3000を種々の試験力と圧子の直径の組み合わせで試験した結果を示します。表3において、2~5行目は同じ圧子で試験力を変えたときの硬さ値ですが、試験力が小さくなるにしたがって硬さ値も小さくなっていることが分かります。
一方、均質な試料に対しては、$0.102F/D2^2$が同じ値になる場合に限り、同じ硬さの値として扱うことができます4)。表3の2行目と6行目において、$0.102F/D2^2$は同じ値(30)となっているため、これらの硬さ値(201 HBW10/3000と202 HBW5/750)は比較することができます。
表3 種々の試験力および圧子の直径に対する基準片202HBW10/3000のブリネル硬さ値
試験力(kN) | 圧子の直径(mm) | $0.102F/D^2$ | ブリネル硬さ値 |
29.42 | 10 | 30 | 201 HBW10/3000 |
14.71 | 15 | 191 HBW10/1500 |
9.807 | 10 | 185 HBW10/1000 |
4.903 | 5 | 171 HBW10/500 |
7.355 | 5 | 30 | 202 HBW5/750 |
1) JIS Z 2243-1(2018) ブリネル硬さ試験-第1部:試験方法.
2) JIS Z 2243-2(2018) ブリネル硬さ試験-第2部:硬さ値表.
3) 大和久重雄,JIS鉄鋼材料入門,大河出版,(2004),199ページ.
4) 山本卓,硬さの相似則と基準片(前編),金属,76,12(2006),1310~1315ページ.
問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
中越技術支援センター 斎藤 雄治
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