SUS420J2を750℃~950℃から空冷したときの硬さと金属組織の変化
本文へスキップ

新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


Topページ > 機械・金属関係 技術トピックス  > SUS420J2を750℃~950℃から空冷したときの硬さと金属組織の変化
SUS420J2を750℃~950℃から空冷したときの硬さと金属組織の変化

1.はじめに
 マルテンサイト系ステンレス鋼 SUS420J2の焼なましの条件は、JIS G 4303 ステンレス棒鋼の附属書に次の二つの条件が参考として載っています。
① 800~900℃徐冷
② 約750℃急冷
 このことと、SUS420J2の一般的な焼入れ条件(920~1100℃の温度から急冷)を比較すると、SUS420J2は温度を変えて急冷するだけで焼なましと焼入れの両方が可能であることが分かります。
 それでは、この材料を750~920℃の間で急冷したらどうなるのでしょうか。それを調べたのが今回のトピックスです。今回は、SUS420J2を焼なましと焼入れの間の温度(750℃~950℃)から急冷したときの硬さや金属組織を調べました。この実験は令和2年7月に行ったものです。

2.実験
・試験片 :マルテンサイト系ステンレス鋼 SUS420J2(直径19mm×長さ20mm)
・熱処理 :750~950℃(50℃おき)の各温度に20分保持後に空冷*
      *この試験片については、空冷が急冷に相当します。
・実験装置:ヤマト科学(株)製 電気マッフル炉 F0410
      (株)アカシ製 ロックウェル硬度計 ATK-F3000
      オリンパス光学工業(株)製 金属顕微鏡 BX-60M-53MB型
・硬さ試験:試験片端面を耐水紙やすりで研磨後にロックウェル硬度計で試験
・金属組織:試験片端面を鏡面研磨および腐食後に金属顕微鏡で観察
      腐食液…塩酸-ピクリン酸-アルコール溶液
          (塩酸10ml、ピクリン酸1g、エチルアルコール80ml)

3.実験結果
 各熱処理条件に対する試験片の硬さ試験の結果を表1に示します。表において、納入状態~800℃についてはJIS G 4303で規定されているSUS420J2の焼なまし状態の硬さ(99HRBS以下)を満たしていることが分かります。一方、850℃~950℃については、40HRC以上と高硬度になっています。また、温度が高くなるに従い硬くなることが分かります。850℃以上では焼きが入っていると考えられます。
 なお、今回の実験のように試験片の硬さが分からない場合のロックウェル硬さ試験においては、初めにダイヤモンド圧子で試験を行い、値が低すぎる場合に球圧子で試験することをお勧めします。これにより、試験機や球圧子を傷めずに済むからです。

表1 各熱処理条件に対する試験片の硬さ試験の結果
熱処理硬さ(三点の平均値)
納入状態90.8 HRBS
750℃に20分保持後空冷88.5 HRBS
800℃に20分保持後空冷88.4 HRBS
850℃に20分保持後空冷40.6 HRC
900℃に20分保持後空冷43.6 HRC
950℃に20分保持後空冷48.5 HRC

 各熱処理条件に対する試料の金属組織を図1~6に示します。図1~6は、表1に示した硬さ試験の結果の順に示しています。
 図1~図3は焼なまし状態の硬さとなった試料の金属組織です。フェライト組織中に細かい球状炭化物が分布していることが分かります。場所により基地組織に濃淡が見られますが、これはフェライトの結晶方位の違いによるものと考えられます。
 図4~6は焼きが入った状態の試料の金属組織です。図1~3に比べて炭化物の量が少なく、基地組織の濃淡が薄くなっていることが分かります。炭化物が少ないのは、炭素が基地組織に取り込まれた(固溶した)ためで、基地組織の濃淡が薄い理由は、基地組織がフェライト組織からマルテンサイト組織に変態したためと考えられます。
 今回の実験結果のように、SUS420J2などのマルテンサイト系ステンレス鋼においては、低めの温度で焼入れした状態と焼なまし状態の金属組織の識別が難しいため、硬さ試験などを併用して状態を把握するのが良いと考えます。

SUS420J2 納入状態
図1 SUS420J2 納入状態

SUS420J2 750℃に20分保持後空冷
図2 SUS420J2 750℃に20分保持後空冷

SUS420J2 800℃に20分保持後空冷
図3 SUS420J2 800℃に20分保持後空冷

SUS420J2 850℃に20分保持後空冷
図4 SUS420J2 850℃に20分保持後空冷

SUS420J2 900℃に20分保持後空冷
図5 SUS420J2 900℃に20分保持後空冷

SUS420J2 950℃に20分保持後空冷
図6 SUS420J2 950℃に20分保持後空冷

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900