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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


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フェライト系ステンレス鋼の金属組織観察のための腐食液について

1.はじめに
 フェライト系ステンレス鋼は、鉄以外の主な化学成分がクロムとなるステンレス鋼の一種で、代表的な鋼種としてSUS430があります。このSUS430の金属組織を観察する場合、腐食液には塩酸ピクリン酸アルコール溶液や塩化第二鉄の塩酸溶液がよく使われます。しかし、フェライト系ステンレス鋼の中でも耐食性を高めた鋼種に対しては、これらの腐食液では腐食が進まず金属組織の観察が難しくなります。今回は、このように耐食性の高いフェライト系ステンレス鋼の金属組織観察のための腐食液について実験結果を紹介します。この実験は令和3年7月に実施したものです。

2.実験
【実験方法】
 市販のフェライト系ステンレス鋼SUS430と日鉄ステンレス(株)製のフェライト系ステンレス鋼NSS442M31)の板材(厚さ1mm)について、表面(大きさ1×2cm)を鏡面研磨後に以下に示す①~③の腐食液で金属組織を現出して金属顕微鏡(オリンパス光学工業(株)製 金属顕微鏡 BX-60M-53MB型)で観察しました。なお、腐食液への浸漬時間は以下に示すようにSUS430とNSS442M3で1:2にとっています。

腐食液
 ①塩酸ピクリン酸アルコール溶液
  (配合:塩酸5ml、ピクリン酸1g、エチルアルコール100ml)
  浸漬時間:SUS430…25s、NSS442M3…50s
 ②塩化第二鉄の塩酸溶液
  (配合:塩化第二鉄10g、塩酸30ml、エチルアルコール120ml)
  浸漬時間:SUS430…10s、NSS442M3…20s
 ③しゅう酸水溶液(電解腐食)
  (配合:しゅう酸10g、蒸留水100ml)
  電流密度:0.5A/1cm2
  浸漬時間:SUS430…30s、NSS442M3…60s

【実験結果】
 腐食液①~③に対するSUS430とNSS442M3の金属組織を図1と図2に示します。図1は低倍率の結果で、図2は高倍率の結果です。SUS430は腐食液①で結晶粒が最も明瞭になっています。一方、NSS442M3は腐食液①と③で結晶粒が明瞭になっています。腐食液③のしゅう酸水溶液による電解腐食は、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304などによく用いられる腐食条件であるため、SUS304より耐食性が劣っているSUS430には「強すぎ」ますが、SUS304と同等の耐食性をもつ1)とされるNSS442M3には「ちょうどよい」と考えられます。なお、図2において、腐食液①と③によるSUS430の金属組織で多く見られる点状のものはクロム炭化物と考えられます。
SUS430とNSS442M3の金属組織 図1 各種腐食液によるSUS430とNSS442M3の金属組織(低倍率)
SUS430とNSS442M3の金属組織 図2 各種腐食液によるSUS430とNSS442M3の金属組織(高倍率)


3.終わりに
 以前、当センターでNSS442M3とは別の高耐食性フェライト系ステンレス鋼について組織観察を行った時、塩酸ピクリン酸や塩化第二鉄ではほとんど腐食せず、しゅう酸水溶液による電解腐食を行ったところ結晶粒が明瞭に現れて観察できた事例がありました。このように、同じ種類の鋼材であっても耐食性が異なる鋼種の組織観察を行う場合には注意が必要です。

参考文献

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900