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新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


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引張強さと試験速度(SUS304材)

1.はじめに
 前回ではSPCCの引張試験片についてクロスヘッド変位速度を変えたときに耐力や引張強さがどう変わるかを調べ、クロスヘッド変位速度が大きくなるにしたがい、引張強さや耐力が大きく伸びが小さくなる結果を紹介しました。
 今回は、SUS304の引張試験片について同様な試験を行いました。その結果、興味深い結果が得られましたので紹介します。なお、この試験は平成30年3月に実施したものです。

2.実験
・試験片 :冷間圧延ステンレス鋼板 SUS304 13B号試験片(板厚0.8mm)
・実験装置:インストロンジャパンカンパニィリミテッド製 万能材料試験機 5582
      (株)フィッシャー・インストルメンツ製 フェライトスコープ MP3C
・試験速度:2、4、10、100、200 mm/min
・伸び計 :ビデオ伸び計(レンズf25、画角100mm、照明アレイ500mm)
・試験項目:万能材料試験機…耐力(オフセット法)、引張強さ、破断時全伸び
      フェライトスコープ…破断部付近の加工誘起マルテンサイト量
・試験温度:20℃

3.実験結果
 クロスヘッド変位速度を2~200mm/minの範囲で変えたときの公称応力-公称ひずみ線図を図1に示し、耐力、引張強さ、破断時全伸び、破断位置付近の加工誘起マルテンサイト量の試験結果を表1に示しました。クロスヘッド変位速度の増加に伴い、耐力は増加し、引張強さ、破断時全伸び、加工誘起マルテンサイト量は減少することが分かります。また、クロスヘッド変位速度が100と200mm/minではほぼ同じ試験結果になっていることが分かります。


公称応力-公称ひずみ線図
図1 公称応力-公称ひずみ線図


表1 引張試験および加工誘起マルテンサイト量の試験結果
クロスヘッド変位速度 (mm/min) 耐力 Rp0.2(MPa) 引張強さ Rm(MPa) 破断時全伸び At(%) 加工誘起マルテンサイト量 (%)
2 324 731 75 29
4 328 724 72 26
10 340 706 59 15
100 341 669 52 6
200 343 667 51 5


 表2に、種々のクロスヘッド変位速度に対するひずみ速度を示します。表2から、クロスヘッド変位速度の増加に伴い、ひずみ速度はほぼ比例して増加していることが分かります。
 さて、前回のSPCCの実験では、ひずみ速度の増加に伴い引張強さは増加し破断時全伸びは減少しましたが、今回のSUS304では引張強さと破断時全伸びの両方が減少しました。過去の文献で、18-8ステンレス鋼をひずみ速度を変えて引張試験すると、破断伸びと引張強さはひずみ速度が0.04-1付近で最小値をとり、それ以上・以下いずれのひずみ速度においても増加するという結果が得られています1)。本実験で行った全てのひずみ速度(0.04-1以下)において、この文献と同じ傾向がみられることが確認できました。


表2 種々のクロスヘッド変位速度に対するひずみ速度
クロスヘッド変位速度 (mm/min) ひずみ速度(s-1)
2 0.0004
4 0.001
10 0.002
100 0.02
200 0.04


文献
1)平野, 須藤, 柚鳥, 日本金属学会誌, 33-8 pp.975-983, (1969).

 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0256-32-5271  FAX:0256-35-7228