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X線応力測定における応力値のばらつきについて(測定時間との関係)

1.はじめに
 X線応力測定において、応力値などの測定値はばらつきを生じます。このばらつきの最も大きな要因はX線強度固有の統計変動であることが知られています。この統計変動による応力値のばらつきの大きさについては、一回の測定から統計学の理論を用いて解析的に求める方法が提案されています1)~4)前回はS45C焼入れ材について、一回の測定から求めた応力値の標準偏差と、100回繰り返し測定した応力値の標準偏差がほぼ一致する結果が得られました。
 ここで、X線強度固有の統計変動による応力値の標準偏差は、測定時間(プリセットタイム)の平方根(ルート)に反比例することが明らかにされています1)~4)。例えば、プリセットタイムを4倍にすると標準偏差は理論上1/2となります。
 今回は、同じ試料を種々のプリセットタイム(5、8、10、15、20、30s)で50回ずつ測定して、応力値の標準偏差とプリセットタイムの関係を調べました。なお、この実験は平成29年7月に行ったものです。

2.実験方法
 用いた材料は機械構造用炭素鋼S45Cの焼入材です。実験装置には、(株)リガク製 X線応力測定装置 PSPC-MSF-3M を用いました。応力測定はψ0一定法の並傾法を用いて表1の条件で行いました。測定は、6種類のプリセットタイム(5, 8, 10, 15, 20, 30s)について、同一条件で50回繰り返し行いました。一回ごとの測定から求めた応力値とその標準偏差と、50個の応力値の平均値と標準偏差を求めました。なお、全ての測定(300回=6種類×50回)は連続で行い、全ての測定には約12時間を要しました。


表1 X線応力値の統計変動の測定条件
管球Cr
Kβフィルタ V
管電圧30 kV
管電流10 mA
コリメータ2×2 mm
sin2ψ0, 0.2, 0.4, 0.6
2θ角142-170 deg
ステップ角0.2 deg
ピーク位置決定法ガウス曲線法
バックグラウンド補正あり
LPA因子補正あり
応力定数-318 MPa/deg

3.実験結果および考察
 図1~図6に、プリセットタイムを5、8、10、15、20および30sで50回ずつ応力測定した結果を示します。図には、50個の応力値の平均値と95%信頼区間を示しました。また、一回ごとの測定から求まる応力値の95%信頼区間1)~4)をエラーバーで示しました。
 これらの図より、プリセットタイムを大きくするほど、信頼区間の幅が小さくなっていることが分かります。また、エラーバーの中に50回測定した平均値がほぼ含まれていることが分かります。
 表2に、各プリセットタイムに対して、50個の応力値とその95%信頼区間、および、一回の測定から求めた応力値の95%信頼区間の50個の平均値を示しました。表2において、50個の応力値の95%信頼区間、一回ごとに解析的に求めた応力値の95%信頼区間の50個の平均値、いずれもプリセットタイムの平方根にほぼ反比例していることが分かります。また、50個の応力値の95%信頼区間は、一回ごとに解析的に求めた応力値の95%信頼区間の50個の平均値に比べて1~2割程大きくなっています。この理由としては電源電圧の変動等が考えられます。
プリセットタイム5sの応力測定結果
図1 プリセットタイム5sの応力測定結果

プリセットタイム5sの応力測定結果
図2 プリセットタイム8sの応力測定結果

プリセットタイム10sの応力測定結果
図3 プリセットタイム10sの応力測定結果

プリセットタイム15sの応力測定結果
図4 プリセットタイム15sの応力測定結果

プリセットタイム20sの応力測定結果
図5 プリセットタイム20sの応力測定結果

プリセットタイム30sの応力測定結果
図6 プリセットタイム30sの応力測定結果



表2 X線による応力値とその95%信頼区間
 50個の応力値1回ごとに解析的に求めた応力値の95%信頼区間
プリセットタイム, s平均値, MPa95%信頼区間, MPa50個の平均値, MPa
5-483±39±32
8-485±30±27
10-492±25±23
15-493±23±20
20-489±22±18
30-485±20±15


文献
1)Kurita, M., Journal of Testing and Evaluation, 9-5 pp.285-291, (1983).
2)Kurita, M., Bulletin of the JSME, 21-156, pp.955-962, (1978).
3)Kurita, M., Journal of Testing and Evaluation, 10-2 pp.38-46, (1982).
4)栗田ほか, 材料, 31-345, pp.609-615, (1982).

 問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       県央技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0256-32-5271  FAX:0256-35-7228