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ディープラーニングによる金属組織の結晶粒の大きさの認識

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1.はじめに
 金属材料において、結晶粒の大きさは材料の強度と密接な関係があります。いま、材料の降伏応力σ、結晶粒径$d$とおくと、σと$d$の間には次式のホール・ペッチ(Hall-Petch)の関係が成り立ちます。
\[   {\rm σ} \propto \frac{1}{\sqrt{d}} \tag{1} \] 式(1)より、結晶粒径$d$が2倍になると、降伏応力σは$1/\sqrt{2}$倍になることが分かります。結晶粒径は塑性加工や熱処理によって大きく変わることが知られています。
 ここで、鋼の結晶粒の大きさを評価する方法として、JIS G 0551 鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法があります。この方法は、試料を結晶粒の境界(粒界)が明瞭になるようにエッチングした後、顕微鏡観察で得られた金属組織の結晶数を数えたり、金属組織の大きさを標準図と比較することにより、次式
\[ m=8\times 2^G \tag{2} \] で定義される結晶粒度番号$G$を求めるものです。ここに、$m$は試験面の1mm2あたりの平均結晶粒数です。式(2)から、$m$=16のとき$G$=1、$m$=32のとき$G$=2、・・・というように、粒度番号が1増すごとに単位面積当たりの結晶粒数が倍になることが分かります。
 上記の方法で結晶粒度を求めることは煩雑であるうえ、得られる結果には個人差が生じやすくなるため、結晶粒度の判定は自動化が望ましいと考えられます。そこで今回は、ディープラーニングを用いて結晶粒度が異なる金属組織画像の認識を行いました。この実験は令和2年8月に行ったものです。

2.実験
 用いた試料は、前回1)作製したSUS304の鋭敏化試料E(700℃に1時間保持後、空冷)です。この試料について、対物レンズ10倍の金属顕微鏡を用いて、画像サイズ2560×1920で100枚金属組織を撮影しました。撮影した100枚の組織画像を表1の①~⑦の各画像サイズにトリミングおよびリサイズ後、学習用80枚、検証用20枚に分けて実験に用いました。表1において、①、②、③・・・のようにトリミング範囲が変わると、面積は1/2、1/4、1/8・・・となるため、見かけ上の結晶粒度が1ずつ小さくなる画像を作ることができます。①の画像から求めた結晶粒度は7であるため、②~⑦の見かけ上の結晶粒度は表1のように表せます。

表1 組織画像の種類
種類 トリミング後の
画像サイズ
①に対する
面積比
結晶粒度
(②~⑦は見かけ上)
リサイズ後の
画像サイズ
1920×1920 1 7 224×224
1358×1358 1/2 6
960×960 1/4 5
679×679 1/8 4
480×480 1/16 3
339×339 1/32 2
240×240 1/64 1

 ディープラーニングによる学習と検証は表2の条件で行いました。表において、VGG16モデルは学習済みのパラメータを用いて、転移学習(出力層のみ学習)とファインチューニング(最後の畳込み層以降を学習)の二通りの学習を行いました。画像の水増しは、画像の回転および水平・垂直方向反転について行いました。

表2 計算の条件
入力画像サイズ 224×224
モデル VGG16
プーリング Maxpooling
活性化関数 Relu, Softmax
最適化アルゴリズム Adam
誤差関数 多クラス交差エントロピ
学習率 10-4
ドロップアウト率 0.5
バッチサイズ 32
学習回数 100


3.実験結果
 種々のサイズにトリミングおよびリサイズした①~⑦の画像を図1に示します。このような画像を学習および検証に用いました。

組織画像① 組織画像② 組織画像③
左:①、中:②、右:③

組織画像④ 組織画像⑤ 組織画像⑥
左:④、中:⑤、右:⑥

組織画像⑦

図1 種々のサイズにトリミングおよびリサイズした組織画像

 学習・検証それぞれのデータを使って①~⑦の組織画像を認識させたときの学習回数と正解率の関係を図2と図3に示します。図2は転移学習の結果で、図3はファインチューニングの結果です。100回学習後の検証データによる正解率は、転移学習では90%、ファインチューニングでは99%となりました。ファインチューニングを用いることで、正解率が大幅にアップすることが分かります。今後は、結晶粒界が明瞭に出にくい焼入れ焼戻し後の鋼材の金属組織について、同様な実験を行いたいと考えています。


図2 画像認識の正解率
図2 画像認識の正解率(転移学習)


図3 画像認識の正解率
図3 画像認識の正解率(ファインチューニング)

参考文献
1) ディープラーニングによるステンレス鋼の鋭敏化組織の認識http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin5.html

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900

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