ディープラーニングによるステンレス鋼の鋭敏化組織の認識
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ディープラーニングによるステンレス鋼の鋭敏化組織の認識
1.はじめに
SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼を特定の温度範囲にある時間さらすと、結晶の境目(結晶粒界)にクロム炭化物が析出する鋭敏化と呼ばれる現象が起こります。鋭敏化すると、耐食性の低下などを引き起こします。
鋭敏化は、結晶粒界に析出しているクロム炭化物の量により、程度が軽いものから重いものまでありますが、鋭敏化の程度を数値評価する方法がないため、前回
1)
、その方法を提案しました。この方法は、鋭敏化した試料の金属組織画像を二値化して黒色の面積率から鋭敏化の程度を数値評価するものです。この方法では金属組織を観察するさい、JIS G0571-2003 「ステンレス鋼のしゅう酸エッチング試験方法」に規定されている条件でエッチングしています。この条件でエッチングすると、鋭敏化の程度が重いものほど結晶粒界が酷く腐食され、金属組織画像の黒色の面積率が顕著に高くなるため、鋭敏化が評価しやすくなります。
しかし、この方法で観察される鋭敏化材の金属組織
1)
は、通常の条件でエッチングした鋭敏化材の金属組織
2)
と大きく異なります。このため、通常の条件でエッチングした金属組織を使って上記の方法で鋭敏化の程度を評価したいところですが、鋭敏化の条件が変わっても黒色の面積率が大きく変化しないため、上記の方法の適用は難しいと考えられます。ただし、鋭敏化の条件によって金属組織は少しずつ変化するため、画像認識を得意とするディープラーニングを使えば組織の識別はできるかもしれません。そこで今回は、通常の組織観察の条件でエッチングしたSUS304の種々の鋭敏化試料の金属組織について、識別できるか検証しました。この実験は令和2年6月に行ったものです。
2.実験
ステンレス鋼SUS304丸棒(直径20mm×長さ20mm)について、固溶化および鋭敏化の処理を行った次に示す試料A~Gの金属組織
2)
を撮影しました。金属組織の撮影にはオリンパス光学工業(株)製のBX-60M-53MBに付属するデジタルカメラを用いました。
試料A:未熱処理
試料B:固溶化熱処理 1100℃に15分保持後、水冷
試料C:700℃に10分保持後、空冷
試料D:700℃に30分保持後、空冷
試料E:700℃に1時間保持後、空冷
試料F:700℃に2時間保持後、空冷
試料G:700℃に4時間保持後、空冷
撮影した金属組織を図1~7に示します。金属組織は、断面の中心から概ね2.5mm外側の位置について撮影しました。 各試料とも図1~図7と同じ倍率で100枚ずつ撮影しました。
図1 試料A(未熱処理)の金属組織
図2 試料B(固溶化熱処理)の金属組織
図3 試料C(700℃10分)の金属組織
図4 試料D(700℃30分)の金属組織
図5 試料E(700℃1時間)の金属組織
図6 試料F(700℃2時間)の金属組織
図7 試料G(700℃4時間)の金属組織
撮影した100枚の金属組織画像を200×200ピクセルにリサイズおよびトリミング後、組織の種類ごとに学習(train)80枚、検証(validate)20枚に分けてGoogleDriveに格納しました。ディープラーニングのプログラムはPythonで作成し、Google Colaboratory上で仮想GPUを用いて実行しました。今回もVGG16という学習済みのディープラーニング用モデルを使用して、学習および認証を行いました。なお、学習用画像は表1に示す前回と同じ条件で水増しを行いました。
表1 画像の水増しの設定
設定項目
設定内容
画像の回転
0~40deg
画像のシフト
0~20%
せん断変換
0~0.2rad
ズーム
0~20%
水平方向反転
あり
3.実験結果
学習・検証それぞれのデータを使って7種類の金属組織を認識させたときの正解率を図8に示します。図の横軸は学習回数です。今回は判別が難しいと思われる画像を認識させたので、正解率が100%に近づくのに多くの学習回数を要しました。1000回学習後の検証データの認識の正解率は98.5%となりました。
図8 画像認識の正解率
参考文献
1) 画像処理によるステンレス鋼の鋭敏化の評価
http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin1.html
2) 固溶化および鋭敏化熱処理後のSUS304ステンレス鋼の金属組織
http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin2.html
問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
中越技術支援センター 斎藤 雄治
TEL:0258-46-3700 FAX:0258-46-6900
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