本文へスキップ

新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


Topページ > 機械・金属関係 技術トピックス  > 焼入れ焼戻した炭素鋼のディープラーニングによる金属組織の認識
焼入れ焼戻した炭素鋼のディープラーニングによる金属組織の認識

1.はじめに
 焼入れした鋼の金属組織は焼入れ温度が高いほど粗くなります1)。ふつう、鋼は焼入れ後に焼戻しを行いますが、焼戻し後の金属組織も焼入れ温度が高いほど粗くなります。金属組織が粗いとじん性(耐衝撃性)が低下するため、適正な温度での焼入れが大切です。
 さて、前回1)では、4種類の温度で焼入れ後の炭素鋼の試料について、金属組織(4種類)をディープラーニングで認識を試み、正解率約90%で認識させることができました。今回は、上記の試料を600℃で焼戻しを行った後の金属組織(4種類)をディープラーニングで認識を試みました。この実験は令和2年8月に行ったものです。

2.実験
 前回1)用いた850、950、1050および1150℃でそれぞれ焼入れした機械構造用炭素鋼S50Cの試料について、600℃で1時間保持後に水冷の熱処理を行ったものを試料としました。これらの試料について、端面を鏡面研磨および腐食(硝酸エタノール溶液:HNO3 5ml、エチルアルコール100ml)後、100枚ずつ金属組織を撮影しました。撮影した100枚の組織画像を224×224にトリミングおよびリサイズ後、学習用80枚、検証用20枚に分けて実験に用いました。
 ディープラーニングによる学習と検証は表2の条件で行いました。表において、VGG16モデルは学習済みのパラメータを用いて、転移学習(出力層のみ学習)とファインチューニング(最後の畳込み層以降を学習)の二通りの学習を行いました。画像の水増しは、画像の回転および水平・垂直方向反転を行いました。

表2 計算の条件
入力画像サイズ 224×224
モデル VGG16
プーリング Maxpooling
活性化関数 Relu, Softmax
最適化アルゴリズム Adam
誤差関数 多クラス交差エントロピ
学習率 10-4(転移学習)
10-5(ファインチューニング)
ドロップアウト率 0.5
バッチサイズ 32
学習回数 100


3.実験結果
 各試料の金属組織を図1~4に示します。焼入れ温度が高くなるにしたがい、焼戻し後の金属組織も粗くなる傾向が見られます。ただし、図3と図4はこの観察倍率では区別がつきにくくなっています。

図1 焼入れ850℃焼戻し600℃
図1 焼入れ850℃焼戻し600℃


図2 焼入れ950℃焼戻し600℃
図2 焼入れ950℃焼戻し600℃


図3 焼入れ1050℃焼戻し600℃
図3 焼入れ1050℃焼戻し600℃


図4 焼入れ1150℃焼戻し600℃
図4 焼入れ1150℃焼戻し600℃

 学習・検証それぞれのデータを使って4種類の金属組織を認識させたときの学習回数と正解率の関係を図5と6に示します。図5が転移学習の結果で、図6がファインチューニングの結果です。転移学習では約80%程度の正解率であったものが、ファインチューニングにより約90%の正解率に上昇していることが分かります。

図5 画像認識の正解率
図5 画像認識の正解率(転移学習)


図6 画像認識の正解率
図6 画像認識の正解率(ファインチューニング)

参考文献
1) 焼入れ温度が異なる炭素鋼のディープラーニングによる金属組織の認識http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin8.html

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900