焼入れ温度が異なる炭素鋼のディープラーニングによる金属組織の認識
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焼入れ温度が異なる炭素鋼のディープラーニングによる金属組織の認識

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1.はじめに
 金属材料は同じ成分でも加工や熱処理によって強度や耐食性などが変わります。これは、材料の結晶の状態(すなわち金属組織)が加工や熱処理によって変わるからです。このため、金属組織を観察して熱処理の良否の判断や材料の強度の推定などが行われています。
 これまで、金属組織観察は専門家と呼ばれるような人が経験によって識別してきました。金属組織を見て良否を判断できるには経験を要するため属人化されやすい上、人が判断するため識別結果が異なる場合も出てきます。このため、客観的な金属組織の識別が望まれます。客観的な金属組織の判定には、画像の認識が得意なディープラーニングが適しています。最近になって、ディープラーニングを用いた金属組織の認識や評価に関する研究やソフト開発が盛んになっています1)~3)。こうした動きの中、当所もディープラーニングによる金属組織の認識を始めています4)~6)
 さて、今回は焼入れ温度の違いによる鋼材の金属組織の違いをディープラーニングに認識させることにしました。ここで、焼入れ温度が違う鋼材の金属組織を認識できるとどのようなメリットがあるのでしょうか。実は、鋼材を適正温度より高い温度で焼入れすると、金属組織は粗くなることが分かっています。金属組織が粗くなると材料はもろくなるため、焼入れした組織が粗いか否かが分かれば、焼入れ温度が適正であるか否か、材料がもろいか否かという判断が可能になります。一つ例を挙げます。図1に刃欠けを起こした炭素工具鋼製の刃物と良品の刃物の金属組織を示します。左は刃欠け品、右は良品です。刃欠け品の金属組織は粗く、良品は細かくなっています。このことから、刃欠け品はもろく、焼入れ温度が高かったことが推測できます。
 上記の例では、人が金属組織が粗いと判断していますが、これをディープラーニングにさせようというのが実験のねらいです。今回は、焼入れ温度が変わったときの鋼材の金属組織をディープラーニングで認識できるか実験を行いました。この実験は令和2年7月に行ったものです。

良品   刃欠け品
図1 刃物の金属組織(左:刃欠け品、右:良品)

2.実験
 機械構造用炭素鋼S50C(大きさ□19mm×厚さ20mm)を850、950、1050、1150℃の各温度に10分保持後に水冷の熱処理を行ったものを試料としました。これら試料について、端面を鏡面研磨および腐食(HNO3 5ml、エチルアルコール100ml)後、各試料100枚ずつ金属組織を撮影しました。全ての金属組織は同一倍率で撮影しました。熱処理にはヤマト科学(株)製 F0410を用いて、金属組織の撮影にはオリンパス光学工業(株)製のBX-60M-53MBに付属するデジタルカメラを用いました。
 撮影した金属組織画像を224×224ピクセルにリサイズおよびトリミング後、撮影した試料ごとの画像を学習(train)80個、検証(validate)20個に分けてGoogleDriveに格納しました。ディープラーニングのプログラムはPythonで作成し、Google Colaboratory上で仮想GPUを用いて実行しました。今回もVGG16という学習済みのディープラーニング用モデルを使用して、学習および認証を行いました。なお、学習用画像は表1の条件で水増しを行いました。

表1 画像の水増しの設定
設定項目 設定内容
画像の回転 0~40deg
水平方向反転 あり

3.実験結果
 各試料の金属組織を図2~5に示します。

焼入れ850℃
図2 焼入れ850℃

焼入れ950℃
図3 焼入れ950℃

焼入れ1050℃
図4 焼入れ1050℃

焼入れ1150℃
図5 焼入れ1150℃

 学習・検証それぞれのデータを使って4種類の金属組織を認識させたときの学習回数と正解率の関係を図6に示します。概ね50回の学習で学習・検証データとも90%程度の正解率に達しましたが、それ以上正解率は上がりませんでした。同一鋼種で似た組織であるため、ディープラーニングといえども完全な識別は難しいようです。100回学習後に各試料20枚×4試料=80枚の検証データを認識させた結果、正解率は90.1%でした。誤って他の試料と認識した検証データは、950℃2枚、1050℃5枚、1150℃1枚でした(850℃は誤りなし)。人間でも見分けが付きにくい焼入れ組織を正解率9割で認識できました。

図6 画像認識の正解率
図6 画像認識の正解率

参考文献
1) 足立ほか,ディープラーニングによる組織識別率の検証,鉄と鋼,102巻12号,2016年
2) 足立ほか,機械学習支援の材料情報統合システム,システム/制御/情報,第61巻第5号,2017年
3) 東芝デジタルソリューションズ株式会社,東芝金属組織試験自動化ソリューション「AI等級判定サービスMETALSPECTORR/AI」を提供開始,2020年,https://www.toshiba-sol.co.jp/news/detail/20200602.htm
4) ディープラーニングによる金属組織の画像認識http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin3.html
5) ディープラーニングによる炭化物を含む鋼の金属組織の認識http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin4.html
6) ディープラーニングによるステンレス鋼の鋭敏化組織の認識http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin5.html

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900

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