本文へスキップ

新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


Topページ > 機械・金属関係 技術トピックス  > 画像処理による球状黒鉛鋳鉄品の黒鉛形状の分類について
画像処理による球状黒鉛鋳鉄品の黒鉛形状の分類について

1.はじめに
 球状黒鉛鋳鉄品の黒鉛球状化率の試験方法は、JIS G5502(2001)球状黒鉛鋳鉄品1)(以下、G5502)で規定されています。この試験では、顕微鏡で観察した組織画像の各々の黒鉛について、G5502の図4の形状分類図と比較して形状ⅤとⅥに分類される黒鉛数を求め、組織画像の黒鉛数(大きさ15μm以上)に対する割合を算出します。ここで、この試験を画像処理で行う場合、G5502では上記の方法に準じるとだけ書かれており、具体的な方法は規定されていません。
 これに対して、JIS G5505(2013)CV黒鉛鋳鉄品2)(以下、G5505)の附属書Bでは、画像処理による形状分類に丸み係数というものを用いる方法が規定されています。今回はこの方法を参考にして、G5502の図4の形状ⅤとⅥの分類方法を検討しました。この実験は令和3年5月に行ったものです。

2.丸み係数による黒鉛の形状分類
 G5505の付属書Bにおいて丸み係数は
\[ 丸み係数 = \frac{黒鉛の面積}{黒鉛の長軸を直径とする円の面積} \tag{1} \] で定義されています。G5505では、式(1)を用いて組織画像中の各黒鉛の丸み係数を算出し、「丸み係数〇〇以上△△未満の黒鉛は形状□に分類する」のようにしきい値(〇〇、△△)によって形状を分類します。
 ここで、G5502の図4とG5505の図B.3の形状分類図ではいずれもⅠ~Ⅵの黒鉛形状が定義されており、両者はよく似ています。このため、G5502の形状分類にG5505の丸み係数のしきい値を用いることも考えられます。しかし、G5502の図4とG5505の図B.3は黒鉛の太さが若干異なっており、後で示すようにこれらの図から得られる丸み係数も異なります。このため、G5502の形状分類には専用の丸み係数を用いるべきと考えています。
 以下では、G5502 図4の形状Ⅰ~Ⅵの黒鉛について以下の手順によって丸み係数を求めました。

1.画像データをグレースケールで読み込み
2.大津の反転二値化
3.丸み係数を算出する黒鉛の輪郭を抽出
4.個々の輪郭について、面積の算出、長軸の長さの算出、式(1)の算出

 G5502 図4の形状Ⅰ~Ⅵの画像データから式(1)の丸み係数を算出した結果を図1に示します。図には形状Ⅰ~Ⅵに対する平均値、最大値および最小値を示しました。図1より、丸み係数の平均値は形状を表すローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、・・・)とともに大きくなっていますが、ばらつきもかなり大きいことが分かります。

丸み係数
図1 G5502 図4の形状Ⅰ~Ⅵに対する式(1)の丸み係数(全ての黒鉛に対する結果)

 図1において丸み係数のばらつきが大きかったため、丸み係数を求める黒鉛の数を減らすことにしました。形状Ⅰ~Ⅵの各図において大きい順に10個の黒鉛を選び、丸み係数を算出した結果を図2に示します。ばらつきは図1に比べて小さくなっていることが分かります。

丸み係数
図2 G5502 図4の形状Ⅰ~Ⅵに対する式(1)の丸み係数(10個の黒鉛に対する結果)

 参考のため、G5505の図B.3について、形状Ⅰ~Ⅵの各図において大きい順に10個の黒鉛を選び丸み係数を算出した結果を図3に示します。形状Ⅱ~Ⅵにおいて、図3に比べて高い値になっていることが分かります。G5502の図4とG5505の図B.3の黒鉛の太さの違いが丸み係数の違いとなって現れたと考えられます。

丸み係数
図3 G5505 図B.3の形状Ⅰ~Ⅵに対する式(1)の丸み係数(10個の黒鉛に対する結果)

 ところで、式(1)の分母を次式の \[ 丸み係数' = \frac{黒鉛の面積}{黒鉛の最小外接円の面積} \tag{2} \] ように置き換えた場合について、図2と同様な方法による算出結果を図4に示します。いずれの形状についても図4は図2とほぼ同じ値を取っていることから、丸み係数と丸み係数'は種々の黒鉛形状に対してほぼ同じ値を取ると考えられます。なお、式(2)は前回3)、球状黒鉛鋳鉄の球状化率の算出で黒鉛Ⅴ、Ⅵの分類に用いたものです。

丸み係数'
図4 G5502 図4の形状Ⅰ~Ⅵに対する式(2)の丸み係数'(10個の黒鉛に対する結果)

3.形状ⅤとⅥを分類する丸み係数のしきい値
 図2より、形状ⅣとⅤの平均値の平均は0.42、形状ⅤとⅥの平均値の平均は0.67となります。ここでは、これらの値を形状Ⅴ、Ⅵに分類する丸み係数の目安としました

・形状Ⅴ:0.42以上 0.67未満
・形状Ⅵ:0.67以上

 同様に図4の結果より、丸み係数'のしきい値の目安を次のようにしました。

・形状Ⅴ:0.42以上 0.66未満
・形状Ⅵ:0.66以上

 形状Ⅴ以上に分類する丸み係数、丸み係数'の目安として0.42という値を得ました。この値は前回3)用いた丸み係数'0.4とほぼ一致しています。

4.終わりに
 今回は、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛形状を画像処理を使って丸み係数で分類するためのしきい値の目安を求めました。丸み係数の算出には画像処理が必要となりますが、ここではOpenCVというライブラリを用いています。OpenCVには輪郭の面積や最小外接円の直径を求める関数があるため式(2)の計算は容易にできますが、式(1)の計算に用いる輪郭の長軸を求める関数は無いため自作する必要があります。ただ、幸いなことに式(1)と(2)から得られる値はほぼ同じになるため、実務上は式(2)を使って黒鉛形状を分類してもよいかと考えられます。

参考文献
1) 日本規格協会, JIS G5502(2001) 球状黒鉛鋳鉄品
2) 日本規格協会, JIS G5505(2013) CV黒鉛鋳鉄品
3) 画像処理による黒鉛球状化率判定試験についてhttp://www.iri.pref.niigata.jp/topics/H31/31kin11.html

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900