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機械学習による鋳鉄の黒鉛形状の分類

1.はじめに
 今回は、鋳鉄の組織画像中の個々の黒鉛の形状について、JIS G5502 球状黒鉛鋳鉄品 (2007)1)(以下JISと呼びます)の図4 黒鉛粒の形状分類図にならって機械学習を用いて分類する方法を紹介します。
 ここで、画像処理を用いた黒鉛の形状の分類の一般的な方法2)を次に示します。

(1)組織画像を二値化
(2)黒鉛の輪郭を検出
(3)画像の縁にかかっている輪郭や大きさ15μmに満たない輪郭を除去
(4)形状分類に用いるパラメータを算出
(5)パラメータのしきい値(評価者が決める)により黒鉛形状を分類

以前、紹介したトピックス3)も、これと同じ方法を用いています。
 しかしながらこの方法は、分類結果に影響するパラメータの「しきい値」を評価者が決める必要があるため、評価者によって結果が変わりやすい方法といえます。そこで今回は、機械学習を用いてパラメータを学習して黒鉛形状を自動分類しました。
 この実験は令和3年7月に行ったものです。
 
2.機械学習による黒鉛形状の分類について
 Gomesら4)が行った方法を参考にして、以下のように行いました。

1.JISの図4のⅠ~Ⅵから全ての黒鉛(Ⅰ:46個、Ⅱ:23個、Ⅲ:57個、Ⅳ:27個、Ⅴ:20個、Ⅵ:21個、計194個)を抽出し、個々の黒鉛について図1に示す面積や周長などを形状測定します。これらの値は画像処理のライブラリOpen CV5)を用いると比較的容易に求まります。

黒鉛の形状測定
図1 黒鉛の形状測定

2.上記1で得られた値を使って、個々の黒鉛について式(1)~(9)に示すパラメータ4)を求めます。
\[ CSF = \frac{4\pi A}{P^2} \tag{1} \] \[ Round = \frac{4 A}{\pi F^2_{max}} \tag{2} \] \[ CSFm = \frac{4 A}{P F_{max}} \tag{3} \] \[ CSFg = \frac{16 A^2}{\pi P F^3_{max}} \tag{4} \] \[ AR = \frac{F_{min}}{F_{max}} \tag{5} \] \[ MR = \frac{W}{F_{max}} \tag{6} \] \[ BF = \frac{W}{F_{min}} \tag{7} \] \[ Conv = \frac{P_c}{P} \tag{8} \] \[ Sol = \frac{A}{A_c} \tag{9} \]
3.式(1)~(9)のパラメータを説明変数にとり、形状Ⅰ~Ⅵを目的変数にとった機械学習用のデータセットを作成します。作成したデータセットにおいて、Ⅰ~Ⅵでそれぞれ最も大きい黒鉛に対するパラメータの値を表1に示します。表1において、$Target$は目的変数、$CSF$、$Round$、・・・、$Sol$は説明変数です。

表1 機械学習用のデータセットの一部抜粋
$Target$ $CSF$ $Round$ $CSFm$ $CSFg$ $AR$ $MR$ $BF$ $Conv$ $Sol$
0.013 0.013 0.013 0.000 0.559 0.012 0.021 0.720 0.045
0.022 0.101 0.047 0.005 0.744 0.150 0.201 0.366 0.197
0.221 0.252 0.236 0.059 0.629 0.234 0.373 0.756 0.502
0.079 0.347 0.166 0.058 0.865 0.333 0.385 0.438 0.453
0.137 0.362 0.223 0.081 0.840 0.319 0.379 0.524 0.566
0.834 0.873 0.853 0.744 0.938 0.872 0.930 0.934 0.977

4.上記3のデータセットを用いて機械学習を行います。ここでは、機械学習のライブラリScikit-learn6)のランダムフォレストモデルを用いて、$k$-分割交差検証($k$=5)によって学習を行っています。
5.学習後に正解率を表す$score$を求めます。$score$が最も高かったモデルを用いて実際の組織画像の黒鉛形状の推論を行います。

3.実験結果
 まず、学習に用いるデータセットのパラメータの組み合わせを変えたときのモデルの$score$を求めました。表2に、5回の交差検証後の学習データと検証データによる$score$の平均値と標準偏差、検証データによる$score$の最大値を示します。表2において、$score$の平均値は全てのパラメータ学習データで1.0、検証データで0.81~0.85(パラメータの個数2の結果を除く)となっています。一方、検証データの$score$の最大値はパラメータの個数が3のとき0.92が得られています。以下では、$score$が0.92となったモデルを使って推論を行いました。

表2 種々のパラメータの組み合わせに対する$score$
パラメータ $score$
個数 組み合わせ 学習データ 検証データ
(最大値)
9 $CSF, Round, CSFm, CSFg,
AR, MR, BF, Conv, Sol$
1.0±0 0.84±0.03
(0.87)
8 $CSF, Round, CSFm, CSFg,
MR, BF, Conv, Sol$
1.0±0 0.85±0.03
(0.89)
7 $CSF, Round, CSFm, CSFg,
MR, Conv, Sol$
1.0±0 0.85±0.03
(0.89)
6 $Round, CSFm, CSFg,
MR, Conv, Sol$
1.0±0 0.82±0.05
(0.89)
5 $Round, CSFm, CSFg, MR, Sol$ 1.0±0 0.85±0.03
(0.89)
4 $Round, CSFm, MR, Sol$ 1.0±0 0.83±0.04
(0.89)
3 $Round, MR, Sol$ 1.0±0 0.81±0.05
(0.92)
2 $Round, MR$ 1.0±0 0.68±0.04
(0.70)

 次に、図2に示す鋳鉄品の組織画像の黒鉛形状の推論を行いました。図2において、AとBは球状黒鉛鋳鉄品FCD450、Cは黒鉛球状化率が80%未満の鋳鉄品の組織画像です。各組織画像を幅88mmに拡大すると観察倍率(100倍)での表示となります(画像をクリックすると拡大します)。

A B C
図2 黒鉛形状の推論に用いた組織画像(左:A、中:B、右:C)

 図2の組織画像A、B、Cの黒鉛形状の分類結果を表3に示します。表の右端の列を除く数値は組織画像中の形状Ⅰ~Ⅵの黒鉛数を表し、上段は機械学習による推論、下段は筆者による判定を表します。また、表の右端の列には、筆者の判定を正解としたときの機械学習の推論の正解率を示します。
 表3において、いずれの組織画像の正解率も90%前後の高い値となっています。ただし、形状ⅢとⅣの黒鉛数が多い組織画像Cでは正解率がやや低くなっています。実際の組織画像にはJISの形状分類図との比較が難しい黒鉛もあるため、特に形状が複雑な形状Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの黒鉛に対して、機械学習と人間の分類結果が多少異なることは致し方ないと考えられます。参考までに、図3に、図2の組織画像に表3の機械学習による推論結果を重ね書きした結果を示します(画像をクリックすると拡大します)。

表3 図2の黒鉛形状の推論および判定の結果(個数)
組織画像 機械学習による推論(上段)
筆者による判定(下段)
下段に対する
上段の正解率
(%)
A 0
0
0
0
2
4
0
1
17
14
70
70
93
B 0
0
0
0
2
3
0
0
25
23
82
83
96
C 0
0
0
0
9
11
8
5
20
21
16
16
89


A B C
図3 機械学習による図2の組織画像の黒鉛形状の推論結果(左:A、中:B、右:C)

4.終わりに
 今回は黒鉛の形状を機械学習で分類する方法を紹介しました。黒鉛の形状をパラメータを使って数値化してランダムフォレストモデルで学習することで、実際の組織画像に対して筆者による判定結果に近い推論結果が得られました。この方法は黒鉛の形状のみならず、粒状の形状分類に広く利用可能と考えられます。

参考文献
1) 日本規格協会, JIS G5502(2007) 球状黒鉛鋳鉄品
2)新版 球状黒鉛鋳鉄品の標準顕微鏡写真集, 1998年, 12-15ページ, (社)日本強靭鋳鉄協会
3) 画像処理による球状黒鉛鋳鉄品の黒鉛形状の分類についてhttp://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R3/3kin1.html
4) Gomes, O. F. M. and Paciornik, S., Automatic Classification of Graphite in Cast Iron, Microscopy and Microanalysis, 11 (4), 2005, pp.363-371.
5) https://opencv.org/
6) https://scikit-learn.org/stable/index.html

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900