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残留オーステナイト定量用の標準試料の試作(その2)

1.はじめに
 前回の「残留オーステナイト定量用の標準試料の試作(その1)」では、SUS430とSUS310Sの混合粉末を焼結してオーステナイト定量のための標準試料を試作しました。今回は安価な標準試料を試作するため、SUS430とSUS310Sの混合粉末を樹脂埋めした試料を作製してオーステナイト定量を試みました。なお、この実験は令和2年1月に実施したものです。

2.実験
【実験条件】
 実験に用いた粉末は前回と同じ市販のSUS430とSUS310Sの粉末です。これより、SUS430とSUS310Sの粉末の質量比がSUS430:SUS310S=95:5、90:10、80:20となる3種類の混合粉末を調合しました。混合粉末の質量は2gです。
 調合した混合粉末をエポキシ樹脂5gと混ぜ合わせた後、直径30mmの樹脂型に入れて硬化させました。エポキシ樹脂には、(株)ストルアス製 エポキシ樹脂 エポフィックスを用いました。硬化後、表面を320番、500番、1000番の耐水紙やすりで順に研磨して樹脂埋め粉末試料としました。作製した樹脂埋め粉末試料を図1に示します。試料の大きさは直径30mm、厚さ5mmです。
 オーステナイトの定量は、(株)リガク製 X線応力測定装置 PSPC-MSF-3M を用いて表1の条件で行いました。プリセットタイムは、α相60s、γ相240sとしました。各樹脂埋め粉末試料について、研磨面の10箇所を定量して平均と標準偏差を求めました。
 回折線の積分範囲およびK値については、SUS310SとSUS430の混合粉末の定量と同じ(積分範囲:α相152~160degおよびγ相126.5~132deg、K値:0.27)としました。

作製した樹脂埋め粉末試料
図1 作製した樹脂埋め粉末試料(左から、95:5、90:10、80:20)

表1 X線回折によるオーステナイト定量の条件
α相 γ相
X線管球 Cr
Kβフィルタ V
管電圧 30kV
管電流 10mA
コリメータ 2×2mm
回折面 (211) (220)
sin2ψ 0
2θ角 152-161deg 125-133deg
ステップ角 0.05deg

【実験結果】
 樹脂埋め粉末試料について、測定した回折線の一例を図2と図3に示します。図2に見られるピークはα相の(211)面のもので、図3のピークはγ相の(220)面のものです。
 このような回折線から求めた樹脂埋め粉末試料のオーステナイト定量値を表3に示します。表において、試料のオーステナイト配合率(見込み)は、SUS310SとSUS430の混合粉末の定量と同じ方法から求めた値です。いずれの試料についても、X線回折による定量値は信頼区間の範囲でオーステナイト配合率と一致していることが分かります。ただし、ばらつきについては前回測定した焼結品に比べて大きくなっています。これは、樹脂で粉末を硬化した場合、樹脂がある分だけ回折にあずかる体積中に存在する結晶数は少なくなるため、焼結品に比べて測定値のばらつきが大きくなったものと考えられます。このことから、樹脂埋め粉末試料を作製する際は、試料が型崩れしない範囲で樹脂中の粉末量をできるだけ多くすることが、測定値のばらつきの少ない試料とするためのコツと言えます。

80:20樹脂埋め粉末試料のCrKα線による回折線(回折角156deg付近)
図2 80:20樹脂埋め粉末試料のCrKα線による回折線

80:20樹脂埋め粉末試料のCrKα線による回折線(回折角129deg付近)
図3 80:20樹脂埋め粉末試料のCrKα線による回折線

表3 樹脂埋め粉末試料のX線回折による定量値と95%信頼限界
樹脂埋め粉末試料 オーステナイト配合率
(見込み), vol%
X線回折による
定量値, vol%
95:5 4.8 5.3±2.2
90:10 9.7 9.1±1.6
80:20 19.4 18.8±1.6


  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900