本文へスキップ

新潟県工業技術総合研究所は、工業系の技術支援機関です。


Topページ > 機械・金属関係 技術トピックス  > オーステナイト系ステンレス鋼の引張強さと試験速度
オーステナイト系ステンレス鋼の引張強さと試験速度

1.はじめに
 前回ではSUS340の引張試験片についてクロスヘッド変位速度を2~200mm/minの範囲で引張試験を行ったときに耐力や引張強さなどを調べました。その結果、クロスヘッド変位速度の増加に伴い、耐力は増加し、引張強さ、破断時全伸び、加工誘起マルテンサイト量は減少していく結果が得られました。
 クロスヘッド変位速度の増加に伴い引張強さが減少する現象は、冷間圧延鋼板SPCCフェライト系ステンレス鋼SUS430には見られなかったため、今回はオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、304L、316、316L)に限定して実験を行いました。なお、この試験は平成30年5月~6月に実施したものです。

2.実験
・試験片 :冷間圧延ステンレス鋼板 SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316Lの13B号試験片(板厚0.8mm)
・実験装置:インストロンジャパンカンパニィリミテッド製 万能材料試験機 5582
      (株)フィッシャー・インストルメンツ製 フェライトスコープ MP3C
・試験速度:2、4、10、20、40、100、200、400 mm/min
・伸び計 :ビデオ伸び計(レンズf25、画角100mm、照明アレイ500mm)
・試験項目:万能材料試験機…耐力(オフセット法)、引張強さ、破断時全伸び
      フェライトスコープ…破断部付近の加工誘起マルテンサイト量
・試験温度:20~25℃

3.実験結果
 各試験片について、クロスヘッド変位速度を2~400mm/minの範囲で引張試験を行ったときの公称応力-公称ひずみ線図を図1~図4に示し、耐力、引張強さ、破断時全伸び、破断位置付近の加工誘起マルテンサイト量の試験結果を表1~表4に示しました。表1~表4より、クロスヘッド変位速度の増加に伴い、耐力は増加し、引張強さ、破断時全伸びおよび加工誘起マルテンサイト量は減少していくことが分かります。このように耐力は増加し引張強さなどが減少する傾向は、試験速度が100~200mm/minになるとほぼ一定もしくは反対となることが分かります。以上の結果は前回のSUS304試験片の結果と同様となりました。

公称応力-公称ひずみ線図
図1 SUS304試験片の公称応力-公称ひずみ線図


公称応力-公称ひずみ線図
図2 SUS304L試験片の公称応力-公称ひずみ線図


公称応力-公称ひずみ線図
図3 SUS316試験片の公称応力-公称ひずみ線図


公称応力-公称ひずみ線図
図4 SUS316L試験片の公称応力-公称ひずみ線図

表1 SUS304試験片の引張試験および加工誘起マルテンサイト量
クロスヘッド変位速度 (mm/min) 耐力 Rp0.2(MPa) 引張強さ Rm(MPa) 破断時全伸び At(%) 加工誘起マルテンサイト量 (%)
2 332 823 70 33
4 333 794 65 25
10 341 750 55 13
20 342 734 52 10
40 345 720 50 8
100 356 712 49 7
200 366 716 50 7
400 361 718 53 8


表2 SUS304L試験片の引張試験および加工誘起マルテンサイト量
クロスヘッド変位速度 (mm/min) 耐力 Rp0.2(MPa) 引張強さ Rm(MPa) 破断時全伸び At(%) 加工誘起マルテンサイト量 (%)
2 311 625 69 3.4
4 312 618 67 2.9
10 295 599 60 1.3
20 322 591 56 1.0
40 317 583 55 0.4
100 332 585 55 0.4
200 330 592 57 0.4
400 326 591 58 0.4


表3 SUS316試験片の引張試験および加工誘起マルテンサイト量
クロスヘッド変位速度 (mm/min) 耐力 Rp0.2(MPa) 引張強さ Rm(MPa) 破断時全伸び At(%) 加工誘起マルテンサイト量 (%)
2 318 664 65 7.8
4 314 660 58 3.7
10 322 643 52 1.7
20 324 640 51 1.1
40 328 633 49 0.7
100 334 632 51 0.6
200 334 634 52 0.5
400 344 639 52 0.5


表4 SUS316L試験片の引張試験および加工誘起マルテンサイト量
クロスヘッド変位速度 (mm/min) 耐力 Rp0.2(MPa) 引張強さ Rm(MPa) 破断時全伸び At(%) 加工誘起マルテンサイト量 (%)
2 299 598 65 0.8
4 302 599 63 0.8
10 306 590 58 0.4
20 326 579 52 0.1
40 305 574 52 0
100 334 578 53 0
200 316 578 54 0
400 315 581 54 0


  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
       中越技術支援センター   斎藤 雄治
       TEL:0258-46-3700  FAX:0258-46-6900