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Lobeによる鋼の結晶粒度の測定

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1.はじめに
 先日、マイクロソフト社からLobeという機械学習のアプリ(ベータ版)が公開されました。Lobeは学習データのインポート(取り込み)から学習、推論までプログラミング無しで行うことができます。前回1)2)は、このアプリを使った金属組織や破断面の認識について紹介しました。
 今回は、Lobeを使って金属の結晶粒度の測定を行います。金属の結晶粒度の求め方としては、JIS G 0551 鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法3)(以下、JISを呼びます)があります。この方法では、試料を結晶粒の境界(粒界)が明瞭になるようにエッチングした後、顕微鏡による金属組織観察で得られる画像について

(1) 結晶粒度標準図との比較
(2) 単位面積当たりの結晶粒数
(3) 試験線1mm当たりに捕捉される結晶粒数又は交点の数

のいずれかの方法により、次式で定義される結晶粒度$G$を求めます。
\[ m=8\times 2^G \tag{1} \] ここに、$m$は試験面の1mm2あたりの平均結晶粒数を表します。
 前回は結晶粒度について、上記(1)に近い方法をディープラーニングで4)5)、(3)の方法を画像処理で6)7)、それぞれ求めました。(1)に近い方法と言っている理由は、「結晶粒度標準図」を「種々の結晶粒度をもつ組織画像」に置き換えて行ったためです。
 ここで、前回4)~7)の方法は、いずれもPython言語を用いているため、プログラミングに詳しくない方にとって試すことは難しいと考えられます。そこで今回は、上記(1)に近い方法についてプログラミングが不要なLobeで行うこととしました。この実験は令和2年12月に行ったものです。

2.Lobeによる結晶粒度の測定
 前回5)撮影したSCM435焼入れ試料(結晶粒度9.4)の旧オーステナイト結晶粒界の組織画像(倍率200倍、100枚)を以下の方法でトリミングして、種々の結晶粒度の組織画像を作成しました。
 ここで、式(1)の単位面積中の結晶粒数について考えると、倍率200倍の結晶粒度9.4の組織画像と倍率100倍の結晶粒度7.4の組織画像は等しいことが分かります。このことから、撮影した画像を倍率100倍の結晶粒度7.4として扱い、元画像と呼ぶことにします。
 元画像から結晶粒度2~7に対する画像を作成するためのをトリミング範囲等を表1に示します。元画像および表1の条件でトリミングした各組織画像の一例を図1に示します。図1の組織画像を幅140mmで表示すると、倍率100倍の各結晶粒度に相当した結晶粒の大きさになります。

表1 各結晶粒度に対する元画像のトリミング範囲
結晶粒度 1mm2あたりの
平均結晶粒数 $m$
$\sqrt{m}$ 元画像のトリミング範囲
7.4(元画像) 1351.2 36.76 1940×1440
7.0 1024.0 32.00 1689×1254
6.5 724.1 26.91 1420×1054
6.0 512.0 22.63 1194×886
5.5 362.0 19.027 1004×745
5.0 256.0 16.000 844×627
4.5 181.00 13.454 710×527
4.0 128.00 11.314 597×443
3.5 90.51 9.514 502×373
3.0 64.00 8.000 422×313
2.5 45.25 6.727 355×264
2.0 32.00 5.657 299×221


元画像 結晶粒度7.0
左:元画像、右:結晶粒度7.0

結晶粒度6.5 結晶粒度6.0
左:結晶粒度6.5、右:結晶粒度6.0

結晶粒度5.5 結晶粒度5.0
左:結晶粒度5.5、右:結晶粒度5.0

結晶粒度4.5 結晶粒度4.0
左:結晶粒度4.5、右:結晶粒度4.0

結晶粒度3.5 結晶粒度3.0
左:結晶粒度3.5、右:結晶粒度3.0

結晶粒度2.5 結晶粒度2.0
左:結晶粒度2.5、右:結晶粒度2.0
図1 元画像および種々の結晶粒度にトリミングした組織画像

 以上の方法により、100枚の元画像から結晶粒度2.0~7.0の組織画像を各100枚ずつ作成しました。これらの画像をLobeに読み込んで学習(最適化を含む)させた結果を図2と図3に示します。図2は全ての結晶粒度(2.0、2.5、3.0、3.5、…、7.0)に対する結果で、図3は整数の結晶粒度(2.0、3.0、…、7.0)のみに対する結果です。
 図3は正解率が100%近くになっていますが、図2は正解率が70%~100%の間でばらついています。この理由としては、同じ結晶粒度とした100枚の画像の中にやや大きめ・小さめの結晶粒度の画像が含まれていることが考えられます。例えば、結晶粒度5.0の100枚の画像の中に結晶粒度4.5や5.5に近い画像が多少含まれていて、それらが結晶粒度4.5や5.5と推測され、正解率を低下させているのではないかと考えられます。
各結晶粒度に対する正解率
図2 各結晶粒度に対する正解率(結晶粒度2.0~7.0、0.5おき)
各結晶粒度に対する正解率
図3 各結晶粒度に対する正解率(結晶粒度2.0~7.0、1.0おき)

 図4は、学習に用いていない画像の結晶粒度の推論結果です。表示されている推論結果は、組織画像が倍率100倍である場合の結晶粒度を表しています。図4の組織画像は上下いずれも500倍であるため、表示された結晶粒度(上:3.0、下:4.5)にJISの計算式による修正値4.6を加えた値(上:7.6、下:9.1)が実際の結晶粒度になります。

SUS304 鋭敏化

SCM435 調質
図4 学習に用いていない画像の推論(上: SUS304鋭敏化材、下:SCM435調質材)

3.終わりに
 以前紹介したように結晶粒度の測定は画像処理でも行うことができます6)が、結晶粒界が明瞭に現出しない組織画像については、手動で結晶粒界を追加・削除する必要が出てきます7)。この煩雑な作業を省こうとする試みが、ディープラーニングによる画像認識を利用した結晶粒度の測定です。今回用いた組織画像は結晶粒界が比較的明瞭に現出していますが、今後はそうでない組織画像も学習に用いたいと考えています。

参考文献
1) Lobeによる金属組織の認識http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin21.html
2) Lobeによる金属破断面の認識http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin22.html
3) 日本規格協会, JIS G0551(2020) 鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法.
4) ディープラーニングによる金属組織の結晶粒の大きさの認識http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin13.html
5) ディープラーニングによる金属組織の結晶粒度の評価http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin19.html
6) 画像処理による鋼の結晶粒度の測定についてhttp://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin16.html
7) 画像処理による鋼の結晶粒度の測定について(計数結果の訂正機能の付加)http://www.iri.pref.niigata.jp/topics/R2/2kin17.html

  問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
        中越技術支援センター   斎藤 雄治
        TEL:0258-46-3700   FAX:0258-46-6900

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