金属材料に対する引張試験方法(JIS Z22411)、以降JISと呼ぶ)において、試験片を引っ張る速度(試験速度)が規定されています。試験速度が規定されている理由は、試験速度によって引張強さなどの値が変わる可能性があるためです。
本トピックスでは以前、SUS304、SUS430、SPCCの引張試験片について試験速度を変えて引張試験を行い、耐力や引張強さ等を調べました2)-4)が、これらの試験片には降伏応力が認められなかったため、今回は降伏応力が得られる鋼材について同様な試験を行いました。この実験は令和3年12月に実施したものです。なお、本トピックスでは、試験速度をクロスヘッド変位速度と表すことにします。
・試験片 :鉄筋コンクリート用棒鋼 SD295A D16 2号試験片
一本の棒鋼から全ての試験片を採取
・試験装置:(株)島津製作所製 万能材料試験機 UH-F50A
・クロスヘッド変位速度:1、5、10、20、40、80 mm/min
80mm/minは実験装置の最高速度
各クロスヘッド変位速度につき、1本ずつ引張試験を実施
・試験項目:上降伏応力、下降伏応力、引張強さ、破断伸び
クロスヘッド変位速度1~80mm/minに対する公称応力-クロスヘッド変位線図を図1に示し、引張試験の結果(上降伏応力、下降伏応力、引張強さ、破断伸び)を表1に示します。図1において、クロスヘッド変位速度が1mm/min以外の線図は横方向に5mmずつオフセットして表示しています。クロスヘッド変位速度が大きくなるに伴い、図1の線図は高応力側に移動し、表1の上降伏応力、下降伏応力、引張強さ、破断伸びは増加傾向を取っていることが分かります。
図1 公称応力-クロスヘッド変位線図
表1 引張試験の結果
クロスヘッド 変位速度 (mm/min) | 上降伏応力 ReH(MPa) | 下降伏応力 ReL(MPa) | 引張強さ Rm(MPa) | 破断伸び A(%) |
1 | 343 | 339 | 488 | 26 |
5 | 353 | 347 | 498 | 28 |
10 | 352 | 349 | 495 | 26 |
20 | 357 | 350 | 496 | 27 |
40 | 358 | 355 | 497 | 30 |
80 | 367 | 361 | 503 | 30 |
ここで、JISではクロスヘッド変位速度を設定して鋼材の引張試験を行う場合、次の条件を規定しています。
① 降伏応力/耐力の測定:応力増加速度が3~30 MPa・s-1に相当するクロスヘッド変位速度
② 上記①以降:ひずみ速度が0.003~0.008 s-1に相当するクロスヘッド変位速度
上記①、②において応力増加速度は弾性域における応力の増加速度を表し、ひずみ速度は塑性域のひずみの増加速度を表します。①、②の条件は予備試験によって求めることができます。
上記②について少し説明します。②は予備試験の結果から
\[
ひずみ速度 = \frac{1}{100}\cdot \frac{破断伸び(\rm{\%})}{降伏が始まってから破断するまでの時間(\rm{s})} \tag{1}
\]
により求まりますが、降伏後の標点間距離はクロスヘッドの移動量に等しいと仮定することで次式
\[
ひずみ速度 = \frac{1}{60}\cdot \frac{クロスヘッド変位速度(\rm{mm/min})}{試験片の原標点距離} \tag{2}
\]
のように概算も可能です。
表2に、試験結果から得られた応力増加度と式(1)、(2)から求めたひずみ速度を示します。表2において、式(2)から求めたひずみ速度は式(1)から求めたひずみ速度に近い値を取っていることから、式(2)による概算もかなり有効であることが分かります。
なお、表2において上記①、②を満足する試験片のクロスヘッド変位速度は、応力増加速度は5~40 mm/min、ひずみ速度は40 mm/minとなることが分かります。
表2 種々のクロスヘッド変位速度に対する応力増加速度とひずみ速度
クロスヘッド 変位速度 (mm/min) |
応力増加速度 (MPa・s-1) |
式(1)のひずみ速度 (s-1) |
式(2)のひずみ速度 (s-1) |
1 | 0.77 | 0.00010 | 0.00013 |
5 | 3.5 | 0.00056 | 0.00065 |
10 | 6.6 | 0.0011 | 0.0013 |
20 | 13 | 0.0023 | 0.0026 |
40 | 28 | 0.0049 | 0.0052 |
80 | 43 | 0.010 | 0.010 |
鉄筋コンクリート用棒鋼の試験片を用いて、試験速度(クロスヘッド変位速度)によって降伏応力や引張強さなどが変わることを紹介しました。また、ひずみ速度の概算方法について説明しました。
1) 日本規格協会, JIS Z2241(2011) 金属材料引張試験方法
問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
中越技術支援センター 斎藤 雄治
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